第3話プロローグ 伝説の始まり 獣の産声

華輝と歩が最近この部屋に来ない。

最後に見たのは15日位まえだろうか。あの時は笑顔で最近の近況について話し合っていたんだっけなと思ったところで、ギィとたてつけられた扉が音をならす。

「おや、今日も僕だけですか。」

「ああ、真良か、まぁ環境が変わって華輝も歩も忙しいんだろう。」

「…まぁそうですね。」

なんだ…つまらないなぁ…。と真良がこぼす。

「そういえば明日はあなたの誕生日でしたね、プレゼントを用意してあるので楽しみにしていてください。」

「分かった。楽しみに待っている。」

「ええ、僕が考えられる最高のプレゼントです。望もきっと気に入ります。それにあの二人も多少忙しくても来るでしょうし、来ないようだったら無理にでも引っ張って来ますよ。」

「そうか、それは楽しみだ。」

それを聞いた真良はどこまでも純粋に笑った。


あの三人はいつ頃来るだろうか。

俺にとって誕生日とは忌まわしいものでしかなかったが、今では祝ってくれる友人がいるのだ。

そんな友人の素晴らしさについて考えていると、扉の方から音がした。

そちらの方を見てみるとそこにいたのは、真良一人だけだった。

「…華輝と歩はどうしたんだ?やはり忙しかったのか?」

「いいえ。あの二人はもうすぐはずですよ。」

「…届く?」

友人の言った言い回しが気になる。届くとはどういうことだ?

「まぁそれはすぐにわかりますよ。それより先に二人で始めましょうか。」

目の前にいる真良がどこまでも邪悪に嗤っている。その目のなかに渦巻くのはどこまでも邪悪な狂気だった。

「…っ」

「はいこれ僕からの誕生日プレゼントです。受け取ってくれますよね?」

目の前にいる真良が笑顔で包装された小さな箱を差し出してくる。その笑顔に心の底で憎悪が生まれ始める。

「…あぁ…勿論だ。」

「よかった準備したのに受け取ってくれなかったらどうしようかと思いました。」

差し出された箱を開けてみるとそこにあったのは小さな指だった。

「…っ!?」

「どうです?あなたがご執心の華輝の指ですよ?」

喜んでくれましたか?と真良が笑顔のまま聞いてくるが頭に入ってこない。まて、目の前にいるコイツはコレをいったいなんと言った?

これが…華輝の指?

「華輝の…指…?」

「ええそうです、華輝の指ですよ。いやぁ準備に時間がいりました。何しろ歩と華輝を引き離させてそれぞれ別々に孤立させなきゃいけませんでしたから。更にそれらを僕が自ら干渉かんしょうしてはならなかった。いやぁ大分大変でした。」

「どう言うことだ…なんでこんなことを…」

真良はニィと笑いながら答える。

「それに答える前に次のプレゼントですよ。」

そして目の前に置かれる少し大きな箱の中には、

「っ!!!」

自分の顔が深い絶望に彩られるのが伝わってくる。そして、真良の笑顔が深まっていく

「ああ!その顔です!その顔が僕は見たかった!!その絶望に染まった顔が何よりもたまらない!あぁ。」

「伝…説…?」

何をいっている?伝説とはいったいなんだ?伝説の中の真良?

自分の頭のなかに果てしない疑問が次から次にあふれでてくる

俺の疑問に答えるためか真良はこちらを向きある一冊の古びた本を差し出してくる

「ええ、これがその伝説ですよ。ご自由に中身をどうぞ。」

差し出された本の表紙はすでにかすれて読めない部分があるが

『最強□□形 □界□の□□』

読めた部分はこう書かれていた

そして数ページ読める部分を繋ぎあわせてなんとか読んでいくと主人公の名前が書かれていた…

『娑木望』

「なんだよこれ」

「僕にも分かりませんよ。でも確かにそこに書かれていたのは望、あなただった。これを見たときピンときたんです。」

「なにを…?」

思わずたずねると真良は演説でもするように両手を伸ばしながら高らかに説明を始める

「何ってプレゼントに決まっているでしょう!?私の友人たるあなたにふさわしいプレゼントです!俺があなたにプレゼントするのは世界だ!胸踊る冒険譚も、胸を焦がすような恋愛譚も、胸を引き裂いて引き潰すような復讐劇も、全てが、全てがあなたの為だけの舞台!あなたが主人公の世界!それをわしはのぞんでいたんじゃ!あは、あはハハはハははハハはハ!」

もはや狂っている。一人称も変わり、理論も破綻し、人格すらも壊れている真良。そして笑い声が聞こえなくなるとそこにいたのは確実に真良ではないナニかだった

「ふぅ、笑った笑った」

「ふざけるな!そんなもののために華輝を殺したのか!」

「ぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇよ。どっちにしろてめぇが足掻いたところで無意味だ何せー

『「」』

「っ!」

それはあの時言われた言葉、目の前にいるコイツが知るはずのない言葉

「お前はいっいたい誰だ!何故その言葉を知っている!『世界はすでに廻り始めた』とはいったいどういう意味だ!」

「だからぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇよ。その言葉の意味はすぐに分かるである限りな」

「っ!?」

自分の中の憎悪が果てしなく増大していく。

人間のせいで、人間が奪った、守ってやったのに裏切った、命よりも大切な家族を殺された

そういった憎悪が心の底からあふれてくる

「あがっ、うぐっ、かはぁっ、はぁはぁ」

瞳の中に憎悪を渦巻かせながらなんとか耐えんと歯を食いしばる

「おぉ耐えてる耐えてる、んじゃぁ仕上げは変わってやるよ」

そういった瞬間ナニかの気配は真良の気配に戻る

「おや、任されましたか。伝説が始まる瞬間を自らの目で見られるとは、なんとも光栄なことですねぇ」

その目は今もなお耐える望ではなく、なにやら騒がしい外に向けられている

「…よう」

「ずいぶん遅かったですねぇ」

「黙れ道化が」

「おやおや、ずいぶん嫌われたものです」

「当たり前だ、てめぇのお陰で華輝と離ればなれになったんだから」

「まぁ僕がしたかったのは伝説の再演でしたから。それにはあなた達二人が一緒にいることも、同時に絶望することも、死ぬことも許されないことですから」

「…何が伝説だ」

悔しそうに歯を食いしばった後、苦しんでいる望に歩み寄る

「っ、はぁはぁ、歩…?」

入ってきたのは歩と鋭利な鉈を持った人間だった。歩は望をみて、そして望の目の前にあるモノをみて歯を食いしばる

「よう人殺し」

「っ、そんなこと!」

「あるに決まってんだろぅがぁ!」

歩の目を見た。そこにあったのは友人を見る目ではなかった、あの頃に笑いあった目ではなかった、そこにあったのはどこまでも憎い者を見る目だった

「俺の目の前で華輝が殺された!目の前で悲鳴をあげるあいつを見た!いつまでたっても泣き叫ぶあいつの姿が離れねぇ!…なぁなんであいつが殺されたと思う?」

「それは…」

「てめぇといたからだよ人殺しが、いいか、よく聞け、俺はいつまでたっても」

歩の後ろには鉈を振り上げる人間が…

『てめぇの人生を呪い続ける』

瞬間歩の頭が俺の目の前から消えた

「あ、あぁ、Agaaaaaaaaaaaa!!」

歩の死と歩が言った最期の言葉が望の心を完璧に壊し、その身を未だあふれでる憎悪に明け渡した。

そして獣が産声をあげ、世界を滅ぼし、世界は廻った





「おや、やっと世界が。」

そこは世界の外。どこまでも白い空間に、どこまでも続く本棚がならび続ける。

そこに一人の男がたっていた。男の身長はそれなりに高く、黒髪黒目をして、藍色の武士が着るような着物を着た男だった。その手には終わったばかりの物語と、空白のページが続くなにも書かれていない本を持っていた。

男の名は『グロフ』世界全ての物語とその世界の運命を書き記した本が置いてある『始まりの書庫』の守護と管理を『世界の法』から任された一柱の神である。

「世界は常に表裏一体、世界はどこまでも廻り続ける。終わりの裏には始まりがあり、始まりがあるかぎり終わりがまた存在している。そして重要なのは、愛情の裏には憎悪があると言うこと。さて、今回あの子はどの道を選ぶのかな」

いつか遥か昔の果てにただ唯一の自分の友人との約束を思い出した。生まれたばかりの人形を見る彼が今どんな顔をしているのかを知っている人物はいない。


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