第79話 お母さん! ただいま!(2)
だが、何だかアイちゃんが悶えているのは気のせいだろうか?
大好きなプアールの頭から離されたから?
それとも、ゾンビだから?
いやいや、チャイ子がアイちゃんをギュッと抱きしめているからなのだ。
優子は、見てはならないものを見てしまったような気がした。
そう、抱きしめるアイちゃんの体が、強い力できしんでいた。
メキメキとアイちゃんの体が音を立てている。
恨みがこもったチャイ子の目。
まさに、今、殺すと言わんばかりの力でアイちゃんを抱きしめていたのだ。
チャイ子は思う。
そう、コイツがいきているせいで、私は保険金が受け取れなかったのだ。
占い師のババアが言っていた。的中率は100%! なにが100%だ!
目の前には娘がいきているではないか!
ならば、私の手で確実に!
さらに、その手に力を込めていく。
あああああぁ……
締め付けらるアイちゃんは、苦しそうな声を出す。
しかし、その瞳には、どこか、嬉しそうな輝きが宿っていた。
――お母さんただいま……
なんか、そういっているような気がした。
――お母さんの言いつけ通り買ってきたよ……
ぎこちないアイちゃんの手がゆっくりと上がる。
アイちゃんが袋に入ったチョコレート菓子を母親に渡そうとした。
「アイ……」
その瞬間、チャイ子の目に涙があふれた。
チャイ子はアイを優しく抱きなおした。
「ごめんね……ごめんね……ごめんね……ごめんね……」
何度も謝るチャイ子。
アイの頭を優しくなでながら、何度も謝る。
先ほどまでとは違った優しい瞳。
アイちゃんは、ビニール袋をチャイ子に押し付けた。
「アイ……許してくれるって言うのね」
涙を流すチャイ子。
優子ももらい泣きで、目頭をおさえていた。
――やっぱり親子の愛って、簡単に断ち切ることってできないのよね。
チャイ子は、アイちゃんの顔を見ながら微笑んだ。
「これ、買ってきてくれたんだね」
ビニール袋に手を突っ込んで、一つのチョコレート菓子をつまみあげた。
「ありがとう」
嬉しそうなチャイ子は、そのチョコレート菓子を口の中に放り込んだ。
うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
瞬時に喉を押さえるチャイ子。
チャイ子の顔がみるみる青ざめていく。
口から泡がどんどんと噴き出してきた。
ついにばたりと倒れるチャイ子。
感動が覚めあらぬ優子とプアールは、訳が分からない。
さきほどまで、感動の親子の和解だったはず。
それが、いまでは母親が泡を吹いて倒れているのである。
―― 一体何がおこったの?
優子とプアールはお互いの顔を見合わせた。
一方、アイちゃんは、プアールの頭に噛みつくとガシガシとかじり始めていた。
お母さん! ただいま絶命中!
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