第39話 アイちゃん(4)
優子は限られた5分で懸命にスマホをスワイプする。
タップに次ぐタップ。
次々と商品をカートに入れていく。
――時間がない……ここまでか!
すかさず会計に進む。
瞬間! ブラックアウト!
『一日使用量に達しました。現在、オフラインです。明日のご利用、お待ちしております megazonネット』
お決まりの文言が表示されている。
スマホを見つめる優子は動かない。
微動だにしない優子の手の中で、スマホだけがかすかに震えている。
間に合ったのか……
確かにお会計ボタンはタップした。
しかし、画面が消えるのとどっちが早かったのだろうか。
優子の手が震えていた。
その様子をおびえるような目でプアールが眺めていた。
プアールはアイちゃんの亡骸をそっと地面に置くと、すくっと立ち上がり、ママチャリへとまたがった。
「ちょっと、どこに行くのよ」
優子がプアールを呼び止めた。
「すぐ戻ってきますよ」
プアールは乾いた笑顔で答えた。
次の瞬間、怒涛の勢いでママチャリを漕ぎ、森の中へと駆け込んだ。
その後にはもうもうと立ち上る砂埃だけが残っていた。
その突然の出来事に呆然とする優子。
――もしかして……逃げた?
あの女、逃げおった! アイちゃんの亡骸をその場において、逃げおった!
はっと気づく優子
――もしかして、これはまずいんじゃない……この状況どう考えても、アイちゃんを殺したのは私たちじゃない……
優子はヤドンの方へと振り向いた。
しかし、すでに優子の背後にいたはずのヤドンはいない。
――あいつ! どこに行ったんだ!
辺りを懸命に見渡す優子の目は猟犬のように血走っていた。
隣町パイオハザーへとつづく一本道に小さくなりゆくヤドンの姿を見つけた。
ムンネと腕を組みラブラブのを装うヤドン。
その背中から、俺は無関係! あとはよろしくと言いているのが見て取れた。
――あいつらも逃げおった!
優子は、アイちゃんの亡骸に目を落す。
先ほどまで元気に笑っていたアイちゃんは、今は笑わない。
冷たくなっていくその体に握られたビニール袋は母に届くことはないのだろう。
優子は目頭を押さえた。
「私も逃げよ!」
ヤドンの後を追って走り出そうとした。
しかし、そう簡単には問屋は降ろさない。
大体こういう時に限って、誰かが現れるのである。
「きゃぁぁぁぁぁ! 人殺し!」
優子の背後から歩いてきたご婦人が声をあげた。
咄嗟に振り向く優子
しまった! 顔を見られた! このままでは、指名手配確実だ……どうする、私、どうする……
「いやだなぁ……死んでるわけないじゃないですか……寝てるだけですよ」
優子は咄嗟にアイちゃん体を抱き起す。
力が抜けたアイちゃんの体は、頭と腕をだらんと垂らす。
「どう見ても死んでるじゃない!」
まぁ、口から血を流して、上目を向いていれば、そう見えるかな……
優子は咄嗟にアイちゃんの腕を取り、勢い良く振ってみた。
「ワタシ! アイチャン! ワタシ! ゲンキヨ!」
腹話術でもしようと言うのか。
しかし、腹話術などできない優子の口は、パクパクと動いている。
「何言ってるの、あなたがしゃべっているじゃない!」
どう見ても優子がしゃべっているのは丸わかりであった。
――ばれたか……
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【アイちゃん、もしかして死んじゃった?】
氏名 アイちゃん
年齢 6歳
職業 小学1年生
レベル 3 (死亡中)
体力 40→0
力 8→0
魔力 1→0
知力 30→0
素早 5→0
耐久 5→0
器用 5→0
運 3→0
固有スキル 親孝行→親より先立つ親不孝
死亡回数 0→1
右手装備 ビニール袋
左手装備 なし
頭装備 ツインテール
上半身装備 赤い服
下半身装備 赤いスカート
靴装備 赤い靴
攻撃力 10→0
守備力 20→0
所持金 100
パーティ なし
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