第31話 魔女ムンネディカ(3)

 優子は目を丸くしながらも足元に転がる少年に手を貸した。

「大丈夫?」


 少年が優子の手を掴みスクっと立ち上がる。

「ありがとう」

 少年のすがすがしい笑顔、真っ白な犬歯がきらりと光る。


 ドキューン!

 優子の目がハートに変わった。

 なんて素敵な美少年!

「君、名前は?」

「オレ、ユウトって言います」

「ユウト君……すてき」


「ちょっとアンタ、私の下僕になにちょっかい出してんのよ!」

 一段上のお立ち台、もとい、土俵の上から、先ほどまで、この少年と熱い抱擁を交わしていた、もとい、相撲の取り組みをしていた女が、腰に手をやり、冷たい目で優子を見下ろしていた。


「スミマセン。あなたの下僕って知らなくて……えっ! 下僕!?」

 優子は女とユウト交互に見比べた。

 この町の美少年は全て変態魔女ムンネディカに連れていかれたはず。

 しかし、目の前のユウトはどう見ても美少年……おそらく10人中8人までが美少年と言う美少年だ。

 でも、残り2人は違うって言うじゃない。

 優子は一縷の希望をかけて女に問うてみた。

「ムンネディカさんですか?」

「そうだが。何だ?」


 オッシャァ!

 やっぱりユウトは美少年だった。

 私の目に狂いはなかった!

 優子はガッツポーズをとった。


「お前は何者だ。私の楽しみを邪魔しよって。ただでは済まさんぞ!」

 はっと我に返る優子

「少々お待ちください……」


 優子はゴキブリのように、コソコソと一目散にヤドンのもとに駆け戻った。

「さあ! ヤドン! やぁ〜っておしまい!」

 優子はヤドンの側に駆け寄ると、ムンネディカを指さし命令した。

 はいぃ?

 状況がよく呑み込めないヤドン。

 しかし、ヤドンの奴、よくぞあの地図でこのムンネディカところまでたどり着いたものだ……もしかして、これがドラゴンの能力か。


「目の前の女が、変態魔女ムンネディカよ! ヤドン! ゴー!」

 優子は再度ヤドンに命令する。

 土俵の上で腰に手を当て、こっちをにらむ一人の女性。

 長い紫の髪が細いしなやかな体によく似合っている。

 その細いからだとは、不釣り合いな巨乳。

 その二つの大きなスイカは、三角の布でかろうじて支えられていた。

 胸が大きすぎるせいで、三角の布が少々足りないようである。

 三角の布頂点からピンクの円が少々覗いていた。

 その切れ上がった細い目は、妖艶で大人の色香を漂わせている。

 どれをとっても、小娘の優子が勝っている点を見つけ出すことはできなかった。

 そう、いうなればパーフェクトボディ!

 優子は負けを確信した。


 しかし、優子はふと感じた違和感に気づく……


 もしかして、この女、アラサー?

 しかも四捨五入でぎりぎりの方……


「あなた! アラサーね! しかも独身!」

 ムンネディカは怒鳴った。

「誰がアラサーよ! 私は20よ20!」


 絶対嘘だ! 優子はにやりと笑う。


「この変態アラサー女! 美少年たちを開放しなさい!」

「解放って? 私がこの子たちをさらったとでもいうの?」

「そうよ、町の人たちが困っていたわよ!」

「何言っているのよ。私はこの子たちと相撲クラブを作って楽しんでいるだけよ」

「やはり魔女! そうやって民心をたぶらかしているのね!」

 仕方ない、やるしかなさそうである。

 最初から交渉で、美少年たちを開放するとは思ってはいなかった。

 まぁ、いい。ここは当初の計画通りヤドン突入作戦だ。


「さぁ、ヤドン! やぁ〜っておしまい!」

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