第30話 魔女ムンネディカ(2)

 暗い路地を抜けるとそこには明るい広場があった。

 どうやら、この広場が目的地らしい。

 優子は建物らしきものを探してみるも、何も見当たらない。


「何もないじゃない、道間違えたんじゃないの」


 ヤドンは地図をくるくると回す。

「いやぁ、間違ってないと思うんだけどな……犬がおしっこをしている先を右、曲がったら黒猫があくびをしているから、そこを左、すると右手におじいちゃんが日向ぼっこをしているのが見えるからその角から3つ目の角を右に曲がる」


 何それ?

 絶対、間違ってるって。


「もう一度戻るわよ」

「帰り道分かるのか?」

「えっ……あんたが分かってんじゃないの?」

「無理だよ……だって、俺が見た時、おじいちゃん日向で気持ちよさそうに、天国に行きかけてたもん」

「おじいちゃんいたんでしょ。だったら大丈夫じゃない!」

「だから、おじいちゃんいないんだって!」

「はぁ、さっきいるって言ったじゃない!」

「だ・か・ら! 俺が見ているときに、天国に昇って行ったんだって! だから、もうおじいちゃんがいないの!」


 優子は路地奥を振り返る。


 路地奥から悲痛な声が聞こえてきた。

「おじいさん! 大丈夫ですか! おい、誰か救急車!」

 なんだか、路地奥がさわがしい。

 うん、これは、あそこの道通れないね……


「分かったわよ、広場で遊んでいる人たちに帰り道聞いてくればいいんでしょ」

 気を取り直して優子は広場の中心へと歩いていった。


 広場の中心では、何人かの若い男女が集まっている。

 どの女の子もすらっとした抜群のスタイルで腹立つぐらい巨乳である。

 ただ、少々気になるのは、水着のようなものを身に着けている。

 海が近いのだろうか。

 面積の少ない水着で覆われた豊満な胸は、布の境からはみ出し、その境界がぷっくりと盛り上がっている。なんか、ムカつかく!

 そう言われれば、先ほどから潮の香りがしているような気も。


 広場の中心部は、周りよりも一段高くなっており、こんもりと盛り上がっていた。

 まるでお立ち台。

 そこに一人の男と一人の女。

 そして、それらをはやし立てるかのように多くの男女が取り囲む。

 中心の一対の男女は、手を腰に回しお立ち台の上を右に左に移動する。

 もしかして、ダンスなのかしら?

 シャル・ウィ・ダンス! ってやつよ! きっと!

 この激しさ、まさにタンゴのリズム!


 しかし、今度はお立ち台の真ん中で動かない。中心に立つ一対の男女は情熱的に抱き合ったままピクリとも動かない。まだ日は高いというのに。まぁ、大胆!


 中心で抱き合う女は、お立ち台を取り囲む女たちよりもひときわ美しい女性であった。そして、男の方は、コレまたすがすがしい少年、まさに、美少年である。美女と美少年が、激しく抱きあがっているのである。

 お互いがお互いを求め、強く抱きしめあう。

 熱い熱い抱擁が続く。

 真昼間なのもかかわらず。


 くそ! うっとおしいわね……


 優子は、いらいらしながら、周囲を取り囲む観衆の中に混ざり、一番前へとかき分け進んだ。


「あのぉ……」

 優子は中心で抱き合う二人に恐る恐る声をかける。

 振り向く美女の顔には渾身の力がこもり、引きつっていた。ひきつる顔は込めた力で赤く染まる。まるでひょっとこのように口をすぼめ、盛り上がる頬がぷるぷると震えていた。


 ウガァ!

 その瞬間、女が男を上手投げで投げ飛ばした。

 優子の足元を少年がころころと転がり落ちてきた。

 フーっと息を吐く女はそんきょの姿勢で手刀を斬った。

「ごっつあんです!」


 って、コレ! 相撲かい!


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