第29話 魔女ムンネディカ(1)

 優子とヤドンは、オタンコナッシーの街の本通りを脇に入り、暗い路地裏を進む。

 地図を片手に、その指し示す道をヤドンがてくてくと歩いていく。

 優子はヤドンの後ろを三歩下がって歩いていく。まるで、古ぼけた日本女性のように、しずしずとヤドンに付き従っている。まさに、大和撫子! 変態といえども男であるヤドンを立てようと言うのであろうか。

 いやいや、そんな考えは全くない。今、優子の頭の中は、目の前のヤドンをどう排除すべきかの作戦を考えていたのだった。


 作戦はこうだ。

 まず、ムンネディカのアジトを見つける。

 そして、ヤドン一人で殴り込ませる。

 その間に、優子が建物の中にMegazonで購入した強力な爆弾をセットする。

 ヤドンがムンネディカをやっつけようが、やっつけまいが、一緒に爆破。


 そう、これは不慮の事故なのだ。決して裏切りではない。


 優子の目がいやらしく笑う。

 これで巨乳もスマホも私の物、しかも、経験値大量ゲットだぜ!


「ヤドン! ちょっと待って! 今のうちにMegazonで武器を購入しておくから」

「そうか、優子もやる気だな」


 優子は、そういうと、スマホを鬼のようなスピードでスワイプし始めた。

 時間は5分

 時限爆弾と、経験値アップドリンク、それと、Fサイズのブラ、もしかしたらのためにGカップとHカップも購入しておこう。それぞれの替えが3つは欲しい。バストケアクリームもいるわね。うーん、このセーラー服だと胸が強調できないわね。服も買い替えるか……

 と言うあたりで、5分経った。

 画面がブラックアウトすると、いつも通りのメッセージが表示される。


『一日使用量に達しました。現在、オフラインです。明日のご利用、お待ちしております megazonネット』


 くそ!

 服はまた今度にするか!

 うん? そういえば服ぐらいなら、スクールバックの中に入っているかも……

 しまった、なんで気づかなかったんだ……私っておバカさん! テヘ

 次の瞬間、けたたましい音がすごいスピードで近づいてきた。


「ハァハァはぁ……おまたせしました!megazonでーす。コチラニ受け取りのサインをお願いいたします」

 女性配達員のアルバイトしている女神プアールがママチャリに乗って現れた。

「ちょっと今日は多いので、ひとつずつ渡しますね」

 プアールは自転車の前かごをゴソゴソと探った。

「まずは、経験値アップドリンクが1つと……バストケアクリームも1つ……次に、Fカップ、Gカップ、Hカップのブラが各4枚、えーっと、それから、時限爆弾が1個……以上になります」


 ヤドンが冷たい目で見ている。

 武器を買うと言って、なぜブラなんだ、しかも、ご丁寧に3つのサイズを取り揃えて。こいつ、絶対、報酬の『ムネもりもり移植術』を狙っているな。


 優子はプアールが手渡した商品を胸いっぱいに抱きながら、苦情を呈した。

「ちょっと待って! 時限爆弾は4つ頼んだはずよ! なんで1個しかないのよ?」

「えぇぇ……私間違ってないですよ。だってほら、注文書に1って書いてるじゃないですか」

 注文書を確認する優子

 しまった!替えブラに気を取られて爆弾の個数を1にしたままだった。

 間違えた。

 このままでは、前と同じで、仕留めそこなうかもしれない。

 焦る優子。しかし、もうmegazonネットは使えない。


「私、ちゃんと4って入力したわよ。システム壊れているんじゃない」

 優子は咄嗟に、megazonのせいにしようとしたようである。


「えーーーーっ! そんなこと私に言われても困りますぅ」

 うろたえる女神プアール。

 その様子を見ていけると判断した優子は、更に強気に出た。

「責任者出しなさいよ! 責任者!」

「えーーーーっ! クレームですか……また、怒られちゃうな……」

 プアールは仕方なしにポケットから黒電話を取り出した。


 ジーコ、ジーコ

 プアールが番号を回す音が静かに響く。


 そして、黒電話を左手に持って後ろを向き、何やら呟いている。

「スミマセン! スミマセン! タダノ課長! いまモンカスからクレーム受けてしまって、そうなんです。個数が足りないのはmegazonのせいだって……はい……はい……そんなぁ……分かりました。そういう風に言ってみます。はい。はい。ありがとうございます」

 ガチャ、チン!


「本社に確認したところ、数量の間違いはないそうで……お前の頭のネジが足りないんじゃボケ! とのことだそうです」

「なんですって!」

「私じゃないですよ! 私じゃ! 本社の方がそう言えって! じゃないと今日のアルバイト代は払わないって言うんです。今日のアルバイト代が入らなかったら、わたし、お水、止められちゃうんですから……」

「もういいわよ! megazonってクソね! クソ! カスタマーサービスがなってないわ!」


「知らないですよ……megazonの悪口言って」

 プアールが意地悪そうに笑った。

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