第32話 魔女ムンネディカ(4)
優子は、三度目の命令をヤドンに下す。
ヤドンはムンネディカを指さし。優子に確認する。
「あの女、ああ言っているけど、本当にいいのか?」
「大丈夫! 女は嘘をつく動物よ!」
いやいや、男も嘘はつきますがな……
「分かったよ。そしたらなんか武器くれない? だって俺、この鎧以外何も持ってないからさ」
優子はヤドンをまじまじと見る。
確かに胸にゆうしゃと書かれた青い鎧以外何も持ってない。というか、渡してなかった。これはまずい。
咄嗟に優子はスクールバックの中に手を突っ込んだ。
武器、そう、剣がいいわ!
真っ白く鋭い剣!
優子はイメージすると、手を勢いよく引き抜いた。
手には白い紙が握られていた。
これは何?
優子は意味が分からない。
剣を願ったのに、ただのコピー用紙。
語呂もなにもかぶってないじゃない!
優子はそのコピー用紙を両手で広げた。
『利用規約違反により、ストックヤードの使用を無期限停止させていただきます。megazonカスタマーサービス』
なんで?
どうして無期限停止?
優子の頭にプアールの意地悪そうな笑みが浮かぶ。
「知らないですよ……megazonの悪口言って」
もしかして、そのせい……
ちょっとそれってひどくない?
ちょっと悪口言っただけなのに……
この世界には言論の自由もないのか……
「ねぇ、まだぁ?」
待ちくたびれたヤドンが、優子を急かす。
うなだれ肩を落した優子が、コピー用紙をヤドンに手渡した。
「なにこれ?」
ヤドンはコピー用紙に目を通すと、プッと噴き出した。
「お前、もしかして、全てのアイテムと装備なくなっちゃったの?」
「なくなったんじゃないわよ、利用停止よ! 停止!」
「でも、無期限じゃん!」
ヤドンは大笑いする。
「あんた、剣の代わりにこのコピー用紙で何とかしてきなさい!」
「これでか?」
ヤドンは優子の無茶ぶりに驚いた。
いくらなんでも、コピー用紙では戦えまい。
「ヤドン! あなたならできる! あなたはできる子!」
いやいや、そんなに言っても無理だろ。普通。
「まぁ、いいや。ちょっと行ってくるわ……」
できるんかい! ヤドンお前コピー用紙で戦えるのか?
さすがはレベル99! ドラゴンの王様である。
ヤドンは鎧をガシャガシャと言わせながら、土俵へと近づいた。
さてはてどうしたものかとコピー用紙を手に持ちながら頭を掻いた。
そして、見下ろすムンネディカに声をかける。
「なぁ。そこのメス。ここの少年たちを家に帰してやってくれないか?」
ドキューン!
ムンネディカの目がハートに変わった。
この目の前の少々変態がかった少年は、今年で35を迎えるムンネディカをメスと呼ぶ。
この相撲クラブでは一番の年長者であるムンネディカをメス呼ばわりするものなどいない。
いつもはアネサン、お姉ちゃん、姉さんである。姉御まではまだ許せる。しかし、おばさんなどと言うものがいれば締め上げていた。
それが、メスである。
なんという甘美な響き。
ここ数十年聞いたことがない、甘露な響きである。
しかも、その言葉を発するこの少年は、これまたなんと美少年。まるで人気アイドルグループのジャムー○J.r.(ジャンガラ節ラッパー)。
相撲クラブにいるどの少年たちよりも、明らかに美少年である。
そんな少年が私のことをメスと呼ぶ。
なに、この見下され感……
ムンネディカの体が震えた。
そのうえ、この少年、上半身は青い勇者の鎧を身にまとっているが、下半身はブリーフ一枚。まさに、変態! いや、力士よ力士! そう、いつでもどこでも力士の心構え!
私の理想!
ムンネディカは自分の体を強く抱きしめ、内またを強く締めむずむずし始めた。
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