第12話 女神の祝福(1)
勇者優子が消え去ったアルガドラスは、なすすべもなかった。
鬼蜘蛛によって、アルガドラスの世界は焼き尽くされ、星ごと砕かれたのである。
宇宙に消えゆくアルガドラスの世界。
アルガドラスの生きとし生ける全てが消滅した。
死んだ優子の意識は白い光の中を漂っていた。
川に浮かぶかのようにゆったりと仰向けで流れていく。
行き先が定まったのか、流れは徐々に加速する。
優子の体は、ある一点に向かって渦をまく。
そして、スポンっと一つの小さな暗い穴の中へと吸い込まれていった。
けっして、便所に流れていくウ●コじゃないぞ。
優子の目がゆっくりと開く。
そこは、いろいろな段ボールが積み上げられた雑然とした暗い部屋。
天井には蛍光灯だろうか。
ついたり消えたりしている。
小さな部屋のためか、天井を見つめる優子の視界の脇には薄暗い壁が見えた。
その壁には、粗末なドアが一つついていた。
ドアの外から怒鳴り声。
「こら! プアール! さっさと働け! この給料泥棒が!」
「タダノ課長、少しは休憩下さいよ。もう、13時間ぶっ通しなんですから!」
「バカか! 俺が若いときは72時間megazonのぶっ通しで配達しておったわ!」
「課長が、若いときにはまだmegazonはありませんでしたよ!」
「プアール! お前、減給な!」
「ちょっと! それひどくないですか!」
「だったら、死ぬまで働け! 死んでから文句言え!」
「そんなぁ……」
そう、そこは、優子の見覚えがある部屋だった。
ガチャリ!
ドアが開く。
まだ、体を動かせない優子の頭の上で女の声が響いた。
「また、死んじゃったんですか?」
白と青のラインのmegazon作業着を着た女はあおむけで寝転んでいる優子の頭の上でつぶやいた。
顔の脇からポニーテールに縛った青い髪の束が垂れ落ちている。
そして、折り曲げた膝の間からイチゴ模様のパンツが見えているではないか。
この女、物語の初めで優子の所に配達に来ていた女性配達員。
そして、優子が、過去、5度ほど会ったことがある女である。
そう、彼女こそ、優子をこの世界へと誘った女神プアールである。
優子にとってプアールは忌々しい女神でしかない。
こいつには、パンツが見えていることですら教えたくない。
そのパンツにうっすらとシミがついていることも絶対に秘密だ。
「もう、いい加減にクリアーしてくださいよ。おかげで私も貧乏なままじゃないですか……こんなんじゃ、絶対、リチルに勝てないわ……というか、差が開くばかり……選ぶ人、間違えちゃったかな……」
プアールは大きなため息をついた。
リチルというのも女神なのだろう。
そしてプアールは、リチルと何かを競っているようであるが、優子のせいで負けがこんでいるようである。
プアールのあの目、絶対に、この転がっている女、すなわち優子が疫病神であることを確信したに違いない。
「アンタのせいでしょ!」
優子は飛び起きた。
咄嗟のことで驚いたのか、プアールは尻もちをついた。
「なんですかぁ! 急に!」
「私をさっさともといた日本に返しなさいよ!」
「だから、何度も言っているじゃないですか、クリアーすれば願いは叶うって!」
「だったら、さっさとクリアーさせなさいよ!」
「それは、あなたがすることでしょうが!」
「何よ! 大した力もないくせに!」
「何をおっしゃいますか。あなたが死ぬたびに、私のへそくりで、あなたに女神の祝福を与えているのですよ。おかげで、私なんか日々、ここmegazonでアルバイトですよ」
どうやら、この部屋は、megazonの配送センターの使われていない物置のようだ。
しかし、転生っていえば、荘厳なイメージ、そう、美しい装飾や、白い壁、光り輝くライト、まぁ、そこまで仰々しくなくても、最低でも女神の威厳を保てるような場所ではありますよね。
普通。
――アホですか! そんな部屋借りるのにどれだけお金がかかると思っているんですか!(プアール談)
この物置もmegazon第二配送センター配達課の上司のタダノ課長に黙って使っているようである。
ばれたら大目玉確定だ。
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