第10話 変態勇者(2)

「レベル1の私だと装備できないしね。そもそも、男用だしって、あんた! 私の体操着、そのままはいたんじゃないでしょうね! パンツはどうしたのよ! パンツ!」


「パンプ? なんじゃそれ?」


「パンプじゃないわよパンツよ! そこに落ちてるでしょ!」


 ヤドンの足元に使われることが無かった白いブリーフが落ちていた。

 ヤドンは、なんか凄い嫌そうな表情でブリーフパンツを拾うと、顔の前で左右に引っ張る。

 その動きに合わせてパンツが伸び縮みしていた。



「いやぁ……なんか、これをはくと蒸れそうな気がして……」


「何が蒸れそうよ! そもそもトカゲでしょうが!」


「アホか! トカゲと一緒にするな! ドラゴンだ!」


「どっちも一緒よ! とにかくパンツはけ!」


 しぶしぶヤドンはハーフパンツを脱ぐとブリーフを身に着けた。


 優しくオクラを包み込むその感覚。

 900年近く忘れていた母に包まれるようなその感覚。

 綿100%の肌触り。

 ヤドンは、一瞬でそのブリーフの虜になってしまった。



「そうよ。その上からハーフパンツをはくのよ」

「いやだ!」


 はっ?


 優子はヤドンが何を言っているのか分からなかった。


「もう一度言います。パンツの上からハーフパンツをはいてください!」

「嫌だ!」

 ヤドンは再び拒絶した。



「なんでよ! パンツ一枚だけだったら湯上りのオヤジじゃない!」


 そうか。

 優子のお父さんは、お風呂上りにパンツいっちょで歩き回っていたのか。

 優子は、何だか懐かしい目で、自分がいた家の一幕を思い浮かべていた。


 あれ、お父さん……って、どんな顔だったっけ? って、お父さんって家にいたっけ?


「この上に何か着たら、この安らぎが失われそうな気がする……」


「気がせんわ! 普通はその上に何かを身に着けるんです!」


「普通とは何だ?」


「変態じゃないこと!」


「では、変態とはなんじゃ?」


 優子は静かにヤドンを指さした。


「お前じゃ!」

 へっ

 ヤドンは自分を自分で指さした。


「俺が変態? 俺は変態? そうか! 俺は完全変態だあぁぁァァぁ!」


 ゴツン!

 優子のげんこつがヤドンの頭をヒットした

 頭を抱えるヤドン

 ヤドンの体力が1減って120→119になった。


「いてぇ! 俺は今、お前にやられて瀕死の状態なんだ。今、この人間体になって、徐々に体の組織を直している最中なんだぞ」


「そうか。そうか。今、瀕死の状態なのか……ならば、ここでお前の一生に引導を渡して、経験値を貰うとしよう」


 優子がいやらしい笑みを浮かべ、両の手をポキポキと音を立てながらヤドンに近づいた。


 ボコっ!

 優子の頭が弧を描く。

 赤い鼻血を引きながら、あおむけに倒れていった。


 地面に倒れた反動で、ついに残った肩ひもも外れ落ち、優子のかすかなふくらみがあらわになった。


 どうやらヤドンの空手チョップが優子の顔面にヒットしたようである。


 優子の体力が20減って50→30へと減少した。


「お前、レベル1だろ……弱っているとはいえ、まだ俺の方が各上だぞ」

 ヤドンは握りこぶしを振り上げた。


 腰をつく優子は、あらわになった胸を、外れ落ちそうなブラで必死に押さえ隠し、泣きながら謝った。


「ごめんなさい。ごめんなさい。もう変態でも何でもいいです。何も言いません……ごめんなさい」


「分かればいいんだ。ところで、その勇者のプレートメイルはもらっていいのか?」


「どうぞどうぞ。お代官様!お納めくだされ」


 卑屈な優子は、正座をし、頭を地面にこすりつけながら、そのプレートメールの腕を頭上に差し上げた。

 プライドもくそもない、見るも無残な優子。


 その横で、ヤドンは、勇者のプレートメイルの上半身だけを身に着けた。

 そう、下半身は裸足でブリーフのままであった。



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【ステータス変化】

 氏名 ヤドン

 年齢 902歳

 職業 変態勇者

 レベル 99(負傷中)


 体力 120→119

 力 100

 魔力 100

 知力 30

 素早 30

 耐久 30

 器用 30

 運  3

 固有スキル 

 死亡回数 0


 右手装備 なし

 左手装備 なし

 頭装備  なし

 上半身装備 勇者の鎧(自称)

 下半身装備 ブリーフパンツ

 靴装備 なし


 攻撃力 100

 守備力 100→120


 所持金 102,999,892

 パーティ なし



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