第9話 変態勇者(1)
「名前、言いにくいから、ヤドンでいいでしょ!」
「ヤドン?」
「それぞれの頭の文字を取って、ヤドン!」
「……? ゴールデンのゴはどこ行った?」
「えっ? もしかしてゴールデンってこだわっているの?」
「いや……それぞれの頭文字をとってって言ったから……」
「だから、ヤドンじゃん!」
「いや……もういいよ……」
「じゃぁ、ヤドン、ちょっと、待っててね」
「って、ヤドンは決まりなのか?」
ふと嫌な予感が横切ったヤドンは慌ててステータスを開き、自分の状況を再度、確認した。
氏名 ヤドン
書き換わっていた。
ヤドンの肩が力なく落ちる。
――なんでヤドン……俺、一応、ドラゴンの王様なんですけど……ヤドンはないわぁ……
ワレかんせずの優子がスクールバックから無理やり何かを引きずり出そうとしていた。
しかし、どうもその物体が大きいのか、ファスナーに引っかかってうまく出てこない。
「もう、レベル99なら、さっさと言ってよ。私と同じでレベル1だと思ったから、私の体操着を渡したじゃない」
――体操着だと!
ヤドンは手にする服を見つめ直した。
そこにはポリエステル50%コットン48%の女子用体操着とハーフパンツが握りしめられていた。
この肌触り……この通気性……いいかもしれない。
スクールバックに足をかけ、何かを力任せに引き抜こうと鼻息を荒くしている優子の横で、ヤドンは、体操着をすごすごと身に着けた。
――気持ちいい!特に股間辺りが気持ちいい!
いやいや、今まで、何もはいていなかったのだから、変わらないだろうが!
恍惚の表情で天を見上げるヤドン。
ドテ!
その瞬間、優子がヤドンの横で尻もちをついた。
手には、立派な鎧がつかまれていた。
それも男物の大きなプレートメイル。
いやいや、そんな大きいものが、どうやってスクールバックに入っていたというのですか。
どこをどうたためば、そのスクールバックに入ると言いうですか。
プレートメイルなんてたためませんから! 普通!
ということで、作者が代わりに突っ込みました。
だって、ヤドンの奴は体操着の肌触りに酔いしれて身をもじっていたので、無理でした。
「これならどう?」
優子は、取り出したプレートメールをヤドンに手渡した。
そのプレートメールは青く光り輝く。
その冷たく光り輝く鎧は、とてもそのあたりの道具屋で売っているような代物ではないようだ。
「前世の世界の誰かが着ていたものだと思うんだけど」
体操服を身にまとったヤドンは、目を輝かせる。
「おーっ!これは勇者の鎧! これを俺にくれるっていうのか?」
なぜヤドンは、一目でその青白き光をまとった鎧が勇者の鎧と分かったのだろうか。
もしかしたら、この世界でも、ヤドンは、その鎧をまとった勇者と激しい戦闘を繰り広げたのかもしれない。
うーん、でも、やっぱり違うと思う。
だって、鎧の真ん中にサインペンで『ゆうしゃ』って書いてあるのだから。
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