キメラがワガママなんでね
……ん?なんか気持ち悪いな。おかしな点が2つほどある。
七つの大罪のうち2つが影に消えた。これは子供の頃からよく聞いていたから知っている。そしてテーマはそれぞれ怠惰と色欲とも聞いている。
だが、なんで今の今まであいつが怠惰だと気づかれなかったんだ?
数百年間動いてないって話に加え、この双剣使いが魔王を見たのはそんな百年も経つことはありえない。そしてその間魔王ガイディスの目撃情報がないのだ。
この話を聞く限りその邪竜ナギラは魔王カイトが召喚したことになる。
それにおかしなことはまだある。神国からの魔王降臨の情報が一切ないのだ。
初代魔王が現れた時、神国に信託が降り全世界に情報が共有された。小さな村であってもだ。魔王カイトの時にそういう仕組みで追いかけ討伐することが出来たのだ。
ちなみに魔王カイトは200年以上生きていたとされている。その間に殺された勇者の数はしれない。
閑話休題。
この神国が神から信託を得て情報を広めたことは子供でも知っている。それ程に重大な話なのだ。
さて、新魔王がいるにも関わらず情報を誰も知っていなかった。この場合4通りある。
前例が初代魔王であるカイトしかない為、それが特別だった可能性。
あとは神国が情報を秘匿している可能性。
そもそも魔王を騙る不届き者の可能性。
そして双剣使いが嘘をついている可能性。
神国の情報秘匿だが、理由がない。魔王崇拝国にでもなっていない限りありえないのだ。世界が一丸となって戦わなければならないほどの恐怖だったのだ。
ちなみに魔王崇拝国は翼人族と竜人族の国だったりする。今は魔王城付近に住んでいるんだとか。その間に何度も侵攻、戦争をふっかけたが結界すら破壊できずお互い停戦状態なんだとか。
……話がよく逸れる。
神託に関しては本当に魔王であるならば一番謎だ。言い伝えによれば初代魔王が現れたときの神託の最後に
『再び魔王が降りぬことを』
とかなんとか意味深なことを言ったと言われている。こんなことを言うってことは魔王が再び現れることを予期していると言うことだ。仮に神託をしないのであれば神であれ使えないゴミである。
ん?……まぁいいや。
あと魔王を騙るヤツって話。それが色欲の生き残りって可能性も。
嘘に関しては震えてる双剣使いを見るにどう考えてもあり得ない。
これで嘘だったならばとんだ大根役者だ。
はぁ……、情報が少なくて考えるだけ馬鹿だ。
さて、この気持ち悪い部分が一つだ。
そしてもう一つ。
邪竜ナギラは魔王カイトによって召喚された。これは間違いないはずだ。話によれば何百年前からいたのだから。
きっと俺が勇者として生まれたのも魔王が生まれたから……なんだろうな。一応もう一人の勇者も探さないとなのか。これは名乗り出てくれるだろう。貴族だし。
この世界で勇者は二人いる。それは平民の勇者と貴族の勇者だ。両方血統は関係なく貴族の場合のみ気高く、正しい者の血に流れると言われている。……実際は腐った奴に多いらしいが。平民に関しては皆平等にと言うことらしい。
さて。
この召喚された時点でアケディアの称号に縛られ、森にずっと軟禁状態って考えるのが普通だ。
いや、別におかしくはないのか。ひっそりと、魔王カイトの配下と知られぬままその地にいたならば、魔王の仲間だとは思われないか?そんなわけはない。魔物は皆魔王の配下だ。ただアルカディアとは思われなかったってだけか。……うーん、目的が分からない。
……あ?いや、待てよ。そういえば魔王カイトの話で天を破壊する邪竜を召喚し、王国軍を滅ぼしたって話がある。
だがその邪竜は破壊を尽くした バハムートと呼ばれて恐れられていた筈だ。いつのまにかいなくなったらしいが。
だがその後に新しく初代魔王は邪竜を召喚した話は聞いていない。
これだと邪竜ナギラの存在しているのは明らかに合わない。
そのバハムートが召喚された時、空を赤く染め、紫電が迸る巨大な魔法陣が現れたって話だ。
邪竜ナギラが存在するならばこの現象が二度起きなければおかしい。
仮に同一だとしても名前も、行動も何一つ合わない。アケディアならば動けるはずがないからだ。
どういうことだ?
ちなみに暴れたバハムートの外観については本の作者によって変わっていた。なんで誰も正確に覚えてないんだ。
あ、でもバハムートは人間側が勝手に呼んでいたってだけの可能性もあるのか。同一の邪竜とみるならば召喚して、暴れさせて兵を蹴散らした後にアケディアの称号を与えたってことか。
でもそれをする意味が分からない。魔王カイトは邪智暴虐を振るう悪魔の象徴だ。わざわざ意味のわからない称号なんてつけなければいいのに。俺ならば暴れさせてから自分たちで国を破壊する。みんなだってそうするだろう。
これが気持ち悪い点の2つ目だ。まとめる。
一つ、魔王ならばなぜ報せがない?
二つ、邪竜ナギラの召喚について誰も知らない?
ってところ。
「うーん、うーん」
一人で考えながら喚いていると横っ腹に肘をツンツンと当てる者が一人。……いや1匹か。
「……なんだ?俺は今考察してるんだが」
「いや、あんた何も聞いてなかったの!?」
「え?」
キメラが心底驚いた顔をする。……そういえば周りがうるさかったようなうるさくなかったような……?
正面に顔を向けるといつのまにか見知らぬ男がいた。スキンヘッドで凄く体がでかい。きっと名の知れた冒険者なのだろう。
「あの人誰?」
「……ギルドマスターよ。あんたほんとに何も聞いてなかったのね。呆れた」
指差すと答えてくれる。だがその呆れたポーズはいらないのではなかろうか。
そこで少しおかしなことに気づく。
「あれ、双剣使いはどこいったんだ?ていうか周りの冒険者たちは?」
そう、彼は蹲っていた場所にもういない。仲間はその場にいて話し合っているのにだ。話し合うならば彼の情報が必要だろう。それに他の冒険者たちもいなくなっていた。というか今も出入り口から出て行っている。
「双剣使い?……あぁ、ダリューね。彼は役目が終わったから退散したのよ」
「は?役目?なんの話だ?」
「なんでもないわ。とりあえずもう私たちでましょ?ギルドは緊急閉鎖するらしいわ。それも当然よね情報が情報だもの。ほら、彼のパーティー以外いないでしょ?……私達は森に行きましょ」
意味深なことを言うキメラは俺の手を強く引く。抵抗できないくらいに。それにしても森だと!?
「お、おい!森ってその邪竜がいるんだろ!?勇者も関係なくレジストできねぇんだろ!?何考えてんだ!このっ!」
必死に抵抗するがキメラはギルドを出てどんどん進んでいく。
「馬鹿やろ!離せ!」
「い、や、よ」
000
やがて門の前に着いた。
「おい!聞いてんのか!」
「おはよう門番さん。私達は外に出るわ。ちゃんと戻るわよ」
そんな抵抗虚しくキメラは門番と話し始めた。何故そんな交流を持っているのか気になるが、手首が壊死しそうでそれどころではない。
「あ!おはようございます!分かりました!お待ちしております!」
「いやぁ、ほんとにあの盗賊には困ってたんで助かりましたよ〜あはは。また盗賊狩りお願いしますね〜」
そんなことをいう門番にキメラは手を振りながら門を出た。
「な、なんだ……?盗賊?……っていいから離せよ!」
キメラは無視してどんどん歩いていく。後ろを振り返るが門から結構離れた。それに手首が紫色だ。明らかにまずい。
「……あんたね、命令使えばいいんじゃないの?」
「はっ!?」
結局そのことに気づいた頃にはもう街から離れている。戻ろうと言うがキメラがいやに否定してくる。……だが何故だろう。その判断が正しい気がしているんだ。
「この馬鹿野郎!俺はヤバくなったら絶対に逃げるからな!」
「ふん!」
それに邪龍は動かせば死ぬって話だ。セイクリッド・テラーでどうにかなるんじゃないか?
その前に無気力になる状態異常をどうにかしないとだが。
そのまま俺はキメラに先導されながら森へ進んで行った。
(キメラはなんで場所を知ってるんだ?)
先を歩く小さな背中を見ながらついて行く。
ただひとつ分かるのは元敵で今は従魔だ。魔王に連なることを知っていてもおかしくはない。だが悪い気配もしない。
(お前は何者なんだ?)
そう問い掛けたいが、今は違う気がした。
(ことが落ち着いたら問い詰めてやる)
そう決めて、拳を握った。森にどんどん近づいていく。それに比例して魂動は早まっていった。
勇者の証は便利、なんでね パロす @parosu
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