月下美人
その後、少女がどうなったのか俺は知らない。もうあの日から、彼女と出会う事は無かった。死んだとさえ疑ったが、彼女らしき自殺者の情報も、また殺人の情報も無かった。月下美人のように生を終えようとする彼女を俺は否定はしたが、俺の中では彼女は一夜限りの存在、まさしく月下美人となってしまった。何という痛快な皮肉なんだと笑った。
だが、何処かで、この街で、きっとその死の匂いを充満させながらひっそりとその美しさを放っている。そう思えば、俺はもうどこに居てもこの世が天国に思えるのだった。
ああ、俺はどうしようも無く彼女に一目惚れしてしまっているらしい。冗談で言ったことがあながち間違いでは無いのはよくある事だ。俺は自らの行いをもって知る。
ああ、俺はどうしようも無く彼女が放つ美しさと死の匂いに囚われているようだ。
彼女とお揃いのナイフなんか持ってみたり、同じ罪を真似てみたりして。
だが、俺の身体からは、彼女と同じ死の匂いはしなかった。
悲しいから今日も、彼女のように若い女を殺す。いつか彼女を見つけられる日が来ることを信じて。
彼女のようになれる事を夢見て。
どうしようも無く綺麗なものを求めて。
人は誰かに憧れるとすぐにその誰かになろうと勝手に模倣しては懊悩する。それを俺は、自らの行いを持って知る。
月下美人 緑夏 創 @Rokka_hajime
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