静かに息づく句読点
月平遥灯
静かに息づく句読点
この一文字目は何から書こう。やはり描写は空が好きなのだけれども。今の気分は音である。僕が書く僅か数千文字の世界には音楽が必須であり、奏でる一つ一つの音を言葉に詰めて、感情を注いだ行間に封をする。
遠雷奏でる青き空の向こうに見える積乱雲を、今か、今かと心待ちにした夏が色濃く薫る一日。規則正しい雨の旋律を鼓膜の奥に引き込んで、その光を捕らえた瞳の奥がほとばしる輝きに酔い痺れる。一口含んだ甘い金平糖が、脳幹の先のシプナスに直接働きかけて、僅かに指を伸ばした。その先にあるキーボードが慌ただしく踊り紡ぐ言葉は、まるでタップダンスのように思いを綴っていく。
ここまで描いて、音を奏でているつもりが、結局、空を込めていることに気付く。だが、まだ挽回の機会くらいはある。
呼吸とともに打ち付けるエイトビートの想いは、僕の紡ぎ出した悲しい純愛に深く楔を打ち付けていて、彼と彼女を引き離そうとする。だから悲恋の曲はいけないと言ったのに。それでも止まらない、さようならの言葉を、僅かながら否定し始める。もう終わりだよ、と主人公は諦めるが、ヒロインは泣いてしがみ付く。
夕刻の橙に染まるパレットに一滴落とす白のアクリルが、神々しく三日月を描くと、安心しきった僕は金平糖をもう一口含む。硬くて甘い舌ざわりを楽しみながら、やがて消失する蜃気楼のような味覚を引きずり、言葉を打ち付ける。句点はまるで
決して変わることのない運命など、存在するのか、という主人公の言葉は僕の言葉なのだろうか。少し、いやかなり馬鹿げている。冷めた僕の心臓は、僅かに跳ねることもなく、淡々と紡いでいく言葉を肯定も否定もしない。述語が叫べば、隣の主語は泣き叫ぶ。しかし、それもまた活字に過ぎない、と。果たしてそうだろうか。
仄暗い夜は風が荒んで、虫の音が紡いだ夏の薫りを楽しみながら、口に含むウィルキンソンが喉の奥で弾けた。終わらない物語に四苦八苦しながらも、行間は感情に喘いでいる。どれだけ主人公が泣いても、ヒロインは帰ってこない。僕が殺したのだから当たり前だ。詫びを入れるべきなのか、それとも
纏わりつく熱気に、鍵括弧は存在意義を失う。話相手のいない彼は、誰に向かって話せばいいのか。地の文はもはや彼のものだ。魂が叫ぼうが、声を枯らせようが、泣き喚こうが自由だ。こんなにも空白の世界は広がっているのだから、しっとりと感情を
カーテンの隙間から差しこむ淡く白い光が、太陽の香りを部屋に運んで来た頃には、デリートキーが紡いできた存在を否定し始める。本来なら死んだ人間が生き返ることはないのだけれども。泣き
ヒロインが死ぬ一秒前まで
挿入された句読点が静かに息づく。
主人公はヒロインと愛を奏でるように、互いの生を喜び分かち合い、孤独を
静かに息づく句読点 月平遥灯 @Tsukihira_Haruhi
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