朝十時半に私はハヤシライスを作った
隅田 天美
料理の素人がエッセーに出てきた料理を再現してみた その4
前回の『茄子の丸煮』で少し自信を無くした。
しかも、仕事疲れで倒れた。
自炊をほぼしない生活だったのだ。
「これは、ダメだ」
しかし、『茄子の丸煮』のトラウマは早々晴れない。
風呂から上がり、眠る前に池波正太郎のエッセー「むかしの味」を読む。
そこにハヤシライスのレシピがあった。
行数にして二行。
だか、私にとってはそれで十二分だった。
だが、全く無問題だったわけでもない。
まず、『ブラウンソース』なるものがAmazonでもないという現実。
とりあえず、近所の大手スーパーで『デミグラスソース』の缶を買う。
次にシェリー酒だが、うちにそんな洒落たもんはねぇ。
なので、燻製の時に時々使う、すでに何年物かすらわからないウィスキーで代用することにする。
再現率的にどうだろう?
玉ねぎは家にある。
牛肉を買ってレジに並ぶ。
これが昨日まで。
今朝。
時計を見るとすでに十時を回っていた。
久々に師匠とチャットをして夜更かししたせいだ。
ご飯は事前にタイマー設定で炊いてある。
まず、台所に立つと小さめの雪平鍋とフライパンを出した。
玉ねぎを厚めの半月切りにして牛肉と一緒に炒める。
隣のコンロには雪平鍋に『デミグラスソース』を入れて弱火で温める。
ある程度、炒めたらウィスキーを入れアルコールを飛ばし、温めたデミグラスソースを入れて完成。
皿にご飯を盛りソースを盛る。
居間に戻り、食べてみる。
「?」
不味いわけではない。
各自、いい味だ。
ただ、てんでバラバラ。
剣道部のエースとサッカーのキャプテンと水球の主将が一堂に「誰が最強か?」と言われた感覚。
なにより、デミグラスソースの存在感が薄い。
我が家のハッシュドビーフ(まあ、もっぱらビーフというよりポークだけど)は固形ルーで味ははっきりしている。
食べ終えて、ふと思う。
仮に池波先生が生きていて何らかの理由で会食しても私的には合わないかもしれない。
まあ、人の「美味しい」なんて千差万別で、その人の味の好みを知るのもまた一興である。
ぜひ、お試しあれ。
朝十時半に私はハヤシライスを作った 隅田 天美 @sumida-amami
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