電話する相手はちゃんと確認しよう

どこにでもいる小市民

電話する相手はちゃんと確認しよう

 私は今、同じクラスの海里かいり君に恋をしている。そして現在、私はベッドで横になりながら、親友の沙耶香さやかに電話をかけていた。



「ねぇ沙耶香。今夏休みじゃん。つまりもうずっと海里君の声を聞いてないんだよ」


「えっとはるか……つまり何が言いたいの?」



 沙耶香が困ったように私の話を聞き返してくる。



「海里君の声を合法的に聞く方法ってないかな?」



 もう2週間以上聞いていない! これ以上は海里君欠乏症で死んじゃうよ!



「う〜ん……そうだ、あんたクラス委員長じゃん」


「そうだよ?」



 その立場を利用してたまに話しかけるぐらいしかできないけど。



「クラス全員の体調管理してますって名目で電話かけてみたら?」


「沙耶香天才!」



 私は沙耶香にお礼を言い、急いで海里君に電話をかける。


プルルル……プルルル……。



「も、もしもし遥さん。いきなり電話なんてくるからびっくりしたよ。何か用?」



 向こうもまさか私が電話をかけてくるなんて思っても見なかったのだろう。軽く動揺しているのが、普段の私なら気づいたはずだ。



「も、もしもし海里君。え、えっと、あのね。その、クラス全員の体調を知りたいなって、一人一人電話してるんだけど。ほら、私クラス委員長だし!」



 しかし1ヶ月以上聞いてなかった海里君の声を聞き、私は非常にテンパっていてそれどころではなかった。



「あ、あぁ体調管理ね。だから電話してきたのか。なるほど体調管理だからか。……体調管理だからか」



 海里君の声のトーンが少し下がった。あれ? 何か間違えたのかな? もしかして電話されるのいやだった?



「う、うん。それでね、体調とか大丈夫? 熱中症とか」


「お、おう! 暑いけど元気だぜ。……そっちは?」



 海里君が私の心配をしてきてくれた。嬉しすぎて激しく心臓が鼓動する。



「え? わ、私? 私はもうめちゃくちゃ元気だよ!」



 多少動揺しつつも、なんとかそう返すことができた。



「そうか。それは良かった……それじゃあまた学校が始まったらな」



 海里君がそう言って電話を切る。耳からスマホを離すと、口元がにやけるのも抑えずに急いで沙耶香へと電話をかける。



「……聞いて遥ちゃん! 海里君とちゃんと電話できたよ! 久しぶりの海里君の声、もう最っ高! 遥ちゃんの言う通り体調管理って理由つけて電話したんだけどね、海里君、私の心配もしてくれたんだよ! ちょう嬉しい! へへへ〜、今日はいい日だなぁ〜」


「あ、あの……遥さん?」


「え?」



 今、沙耶香じゃない別の男の人の声が聞こえた。でも、その男性の声は聴き慣れた……と言うかさっきまで聞いていた声で……。



「た、多分電話する相手、ま、間違ってると思うんだけど……」(まじで? やばい嬉しい可愛い!)


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!? ごめんなさいごめんなさい電話する相手間違えました!?!?!?」



 こうして夏休みの間に私は彼氏を作ることに成功した。

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