夢の続きへ

春嵐

あなたに逢うために

 あの日見た夢。


 覚えている。身体が。心が。


 誰かに逢っていた。それだけの、夢。それでも、その人に逢うことが、私の人生になった。


「では、次のニュースです」


 原稿を目で追い、同時に正確に、丁寧に発話する。


 夢で逢ったあなたに。逢うために。私が思う、最も人に覚えられやすい職業についた。局付のニュース専属アナウンサー。


「ニュースをお伝えしました」


 今日のニュースは、これで終わり。退社するだけ。


 あの日一回きりで、何度寝てみても、あの夢は見なかった。誰にも、会わなかった。


 もう、無理かもしれない。がんばってニュース読んで。がんばって寝て。それでも、逢えない。つらくて切ない気持ちだけをひきずって、毎日が進む。


 連絡用の端末が震える。呑み会の誘い。野球選手と、らしい。


 こういうので適当な相手を見繕って、結婚してしまえばいい。そうすれば、世間一般の評価でいうところの、勝ち組の人生。


「そんなもの、いらないのに」


 逢いたいだけなのに。ずっと。こうやって。ひとりなんだろうか。


 連絡用の端末。また震える。


『発見した』


 周りを見渡す。


 遂に。彼が。私を見つけて。


 違った。


 女子アナ連中。こちらを見つけて、絡みついてくる。


「いえ、私は」


 断ろうとしたのに、連れていかれる。そのまま、近くの店へ。


 どんなにニュースを読んだって。どんなに寝たって。会いたい人には、会えない。


 席についた。まだ相手方は来ていない。


 適当に呑んで、帰ろう。お酒を呑めば、眠りも早い。あの夢は、見れないけど。


 お酒をたくさん注文して、野球選手が来る前に盛大に呑んだ。女子アナも乗っかって、普通の女子呑み会になる。


 いつのまにか、眠ってしまっていた。


 身体。浮き上がったような、感覚。

 浮き上がった身体を、誰かが、支える。

 あなたは。

 あなたを、探して。私は。

 生きてきたのに。

 なんで、今更、あらわれたの。

 私の前に。

 もう、わたしは、つらくて。逃げたくて。

 私は。あなたのことが。


 そこで、起きた。好意も伝えられなかった。


「起きましたか」


 声。


「うそ」


「ほんとです」


 目の前にいる。


 彼が。


「わたし、わたしは」


「テレビ中継もされるし、球場には人も来るから、見つけられやすいかなと思って。野球選手になったんです」


「私もです。テレビに映る職業をと、思って」


「見事にすれちがいましたね。僕が試合に出ているとき、あなたはニュース読みだ」


「はじめまして。また、逢えましたね」


「また、逢いたかったです。はじめまして」

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