レベッカレッカ 第三惑星で呑む

春嵐

第三惑星で呑む

 吐いた。


 吐瀉物は、出てこない。吐いたという気分だけが、残る。


「くっそ」


 吐きたいのに。何も出てこない。食べてないから、出てくるものもないんだけども。


 この惑星。


 意味が分からない。


 特定の知能と社会を備えた生き物が、毎日せわしなく動いている。


 収斂進化で自分と似た体型。似たような意志疎通方式。そこまではいい。


 彼らは労働というかたちで生存のためとは少し異なる行動を行い、その対価として娯楽という快楽を得る。


 それのなかに、吐くほどに、自分をいじめてくる作品がある。


「ああ、くっそ」


 さっき見た、映画という娯楽。最後の最期に、無限の命を得た主人公が宇宙の闇に放り出されて、永遠に世界をさまようラスト。


「あれは私じゃないのか」


 そう思ったら、また吐いた。やっぱり、何も出てこない。


「ああもう」


 次の映画も、その次の映画も。最終的には魔法少女ものの劇場版でも吐きはじめた。あんな魔法少女いねえよ。死ね。夢は寝て見てろ。映画にすんな。


 吐いても吐ききれない。これが、社会性。これが、娯楽。


「なんなんだよもう」


 トイレからなかなか出れねえ。


「あの、大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないです。うええ」


 なんか出てこいよ。せめてさあ。胃酸とかさあ。いやまあ魔法少女胃酸出さないけどさあ。


「映画、さっき見てましたよね?」


「ええ」


「映画見てるときは、吐いてませんでしたよね?」


「あ、ええ。うえ」


 言われるまで気付かなかった。


「失礼ですが、何才ですか?」


「128億」


「あの」


「128億。光。年。おえっ」


「ええと」


「聖人です聖人。成人。おえぇ」


「もしかして、酔ってる、だけなのでは?」


「あ?」


 ばかいえ。


 魔法少女がビールで酔ってたまるか。

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レベッカレッカ 第三惑星で呑む 春嵐 @aiot3110

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