その女は演じている

まる

第1話 偽の始まり


「林田くん、私と付き合ってください」


放課後の教室。窓から夕日の光が差し込み殺風景な教室を色付ける。昼間騒がしい廊下や教室は今は静かで彼女の声だけが俺の耳へ届く。



彼女は告白しているのにも関わらず無表情で、恥ずかしさの欠片も顔に出ていない。

更に、彼女とは一切接点を持っていなければ昔助けたなんてラブコメ展開すら無い。

そんな彼女がわざわざ放課後の教室で完全下校時刻10分前にここで告白して来ているってことは十中八九嘘コクだ。彼女の名前は早川 桜(はやかわ さくら)俺のクラスメイトでありクラスの中心人物であり、美少女。肩で切り揃えられた黒髪のセミロングを靡かせ、大きなくりりとした目。すらっと鼻が伸びておりプルンプルンな唇。誰がどう見ても可愛いのだ。そんな彼女が一切接点のない相手に対して告白を試みているのだ。しかも無表情。


告白をするということは少なくとも相手に対して一定の好意を抱いているということ。その好意を相手に対して告げるのだから少なくとも恥じらいや緊張の感情が浮かび上がるはず。演技が上手い女優ならまだしも、クラスで友達と会話をしている彼女を見ても喜怒哀楽がしっかりしている。なのでその線は消えた。ならば消去法で偽告白だと推理できる。

ただ、俺も一般男子高校生だ。彼女、しかもこんな美少女と付き合えるのならばステータスとして誇れる。つまり俺が言う言葉は.....



「おっけー」



軽い。そう思うだろう。ただし相手が偽告白していると確信しているからそう告げただけ。

本気の告白ならばもっと言葉を選ぶだろうが相手も軽い気持ちで告げてるのだからこれだけで十分だ。


俺はそう考えながら彼女の顔を観察する。


「ありがとう、これからよろしくね」


彼女は普段クラスで見せている笑顔でそう言った。



「じゃあ、早速一緒に帰ろ!」


彼女は笑顔を向けて言ってきた。


「おう」


素っ気ないと思われるだろうがこれでいいのだ。

俺は早川が嫌いだ。その作り物の笑顔も、作り物の性格も。俺は知っている。こいつが猫を被っているってことを。だから俺は、言わなければならない。


「なぁ、早川。疲れないか?友達に合わせてゲームをして罰ゲームで告白をすして。嘘コクなんて最低の行為。もし俺が早川に対して好意抱いていたらお前はその気持ちを踏みにじる最低の行為をしていることになる。幸い俺はお前のことが大嫌いだから。その作り物の笑顔も性格も。」


あと、と付け足して


「期間はしらんが俺は彼女というものが欲しかった。だからお前には役目を果たしてもらう。1ヶ月か?1週間か?はたまた3日か?何日でもいいが、とにかく彼女という物に触れてみたいんだ。協力よろしく。ほら、行くぞ」


俺は彼女に対して全て見透かしているぞという旨を報告することによって俺の本音を自然に明かすことによって彼女から素で接してもらうことを目標にした。


「ど、どうしたの?林田くん?私本気だよ?いきなり猫かぶってるとか言われて私分かんないなぁ?」


あぁ、気持ち悪い。この自分の可愛さを武器にして男に有無を言わせない表情。本当に吐き気がする。

だから俺は


「一昨日の放課後。西棟3階。踊り場。」


単純かつ正確な。彼女にしか分からない情報を伝える。

とたん彼女の目から光が消えた。これが彼女の本来の顔か。


「へぇ、見られてたんだ。あぁ、ぬかったわ。だる」


ほらな。これが彼女の本性。早川桜の裏の顔。いいやこれが表の顔か。普段が裏なのだ。


俺が見たのは彼女が西棟3階の踊り場でクラスメイトの愚痴を言ってた所だ。あの表情は今でも忘れない。


「まぁな、ひとは誰しも2面性を持ち合わせてるからな。否定はしないが嫌いとだけ言っておく。でも彼女は続けてくれよ。ちなみに期間は?」


そう、人は周りに合わせて人格を形成する。

だからこそ裏の顔の早川 桜は生まれたのだ。俺は他人が作った人格で接して欲しくない。だからこそ彼女の本性を暴き、表の顔で接してもらえるよう誘導した。


「1ヶ月。そしたら普通に別れる。本当は、1ヶ月付き合ってみて良かったらそのままのつもりだったんだけどね。あんた顔だけはいいから。性格は今の聞いて分かったわクソだね。」


「お前に言われたかねぇよ。とにかく俺とふたりの時は猫かぶるな。ありのままのお前でいろ。んじゃ、帰るぞ。さくら。」


「いきなり名前で呼ぶのね。まぁいいわ。いきましょ翔真。」



別にラブコメじゃないんだから下の名前で呼ぶことには躊躇しない。俺達は雑談しながら帰路についた。

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