第2話
であればこそ、神仏すら斬れると信じた彼の心境は――推して図るべしだろう。
彼は戦国の世において無名、無名にして最強であった。だからこそ天下無双など求めなかった。その代わりに彼は、弱きもののために夢をみた。人間が歩むべき道程に、剣の切っ先を向けた。
人が人として人らしく生きるために、神仏への信仰は不純物のように思えた。神仏という、名も無き存在を思考するリソースを己の生きるために費やすことこそが、弱者が唯一、神仏の奴隷として生きる宿命から解放することだと信じていた。そしてこの馬鹿げた夢想を、決して夢想で終わらせないだけの力が彼にはあった。
忠臣が悲願を成就するために始めたことは、神社という神社を焼き払うことであり、仏閣という仏閣を薙ぎ払うことであり、仏僧という仏僧を屠殺することだった。そして時には、救援として駆け付けた武将たちを悉く殺すこともあった。
いずれにせよ彼は、どの戦いにも勝った。たった一人で勝ち続けた。
そして灰燼と化した神仏の居で、彼は一人演説する。
「余はすべての万難を排し、もって、貴様らが神の奴隷として死ぬ運命を絶対的に否定してみせよう。貴様らはただ、余を信じ余に追従する民となれ!」
戦乱の世において、彼の演説はあまりにも先進的だった。故に、たったの一人も彼に同調することができなかった。そして寄る辺として、新たなる神仏を求めて去っていった。忠臣はそんな彼らの背中に慟哭で訴えこそすれ、切り捨てるような真似はしなかった。彼にとって弱きものは救済の対象だった。民の選択がどんなに愚かだろうと、いつか自分が救済してみせる。そう信じた。
「この世から神仏が消えるとき、貴様らは初めて余を信仰することになるだろう!」
この世界から馬鹿げた神仏への信仰が消えるまで。
何度でも、何度でも繰り返そう。
そう思っていた。
ある男に出会うまでは。
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