檜扇忠臣の八百万屠殺記
神崎 ひなた
第1話
――それは戦乱の世。
一方、彼の腕に抱かれた老婆は、
「ああ……ああ……神様……仏様……どうか私めを極楽浄土へお連れください……」
「この大莫迦者がァァァァァァァッ!!!」
檜扇忠臣は、いよいよ
「貴様をここで見捨てるような神仏になど
それは
そんな彼の心中を知ってか知らずか、老婆はただゆるやかに微笑みを浮かべるだけだった。
「神よ……どうか……どうかこの子にだけは……幸せな……」
そう言い残して、老婆はがくりと項垂れた。それからもう、何も言わなかった。
忠臣は、歯を食いしばって喚いた。
「よりにもよって……今わの際に残す言葉が……神に向けての言葉かァァァァァァァ!!!!!」
彼は怒号と共に、己が腰に提げた一振りの刀を力任せに振りぬいた。閃いた軌跡が空を舞ったかと思うと、この世ならざる歪な金切り音が響いた。かと思えば、倒壊した家屋が二つに割れた。そのようにして彼は、眼の行き届くすべての家屋、その残骸を薙ぎ倒した。
それでも怒りは未だ収まらず、肩を震わせながら喚いた。
「なぜ人は人として死ねぬのだ! なぜこのような下らぬ、なんの意味もない、価値もない、何もできない神仏に、己が信念を乗っ取られなければ生きられぬ! 死ぬことすらもできぬ! 弱きものは寝ても覚めても祈ることしかできない! 弱きものは神仏のために生まれて神仏のために死ぬようなものだ! 信じる者は巣食われるとは全くよく言ったものだ! 神仏などという虚構に支配されるだけの人生ぞ! ならば人の意志はどこにある!? 人として生まれてきたことに一体なんの、何の意味があるというのだ!」
彼は慟哭した。血を吐きながらもなお慟哭した。とうに喉は潰れているのに、それでも彼は叫ばずにいられなかった。
「ゲハッ、ゲハッ、ゲファ……フン! よかろう。信じるものが巣食われるのが世の理ならば――余が、この世に蔓延るすべての信仰を殺そうではないか」
そうして初めて弱きものは人として、初めて己を生きることが出来るのだろう――
そう、この時だ。この時――
必ずや、この世に蔓延る信仰の全てを駆逐せしめんと。彼の瞳からは、その決意の強さを物語るように、大河のごとき血涙があふれ出していた。それは、自らの決意が遅きに失したばかりに死んでいった、弱き者たちに向けた追悼であった。
――それは戦乱の世。
かつて小さな山村があった場所で、
かつて母だった亡骸を抱えた男が、
「
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