500/2/3-2

 手錠をかけられたままガブリエルが放り込まれたのは窓のない部屋。全ての壁、天井、床が金属でできている。扉も同じ素材の金属で作られていて、穴はない。鍵の音を聞く限りだと電子ロックのようだ。閉まった後の扉は完全に壁と一体化してしまっていてどこにも隙間がない。

 そして、ガブリエルは能力を使えないことに気づく。どれだけ力んでも水の一滴も生み出せない。額から流れるのは嫌な汗だけ。それに、たとえ能力を使えたとしてもここから抜け出すことはできなかったんだろう。ガブリエルは部屋の壁の金属を見たことがあった。ルキフェルに作られて間もない頃に拘束されていた部屋のものと同じ材質である。意味も分からず金属の部屋の中に閉じ込められたガブリエルはウォータージェットで壁を破ろうとしたり壁に流動性を与えることで穴を開けようとしたり、色々試みたのだが、手も足も出なかった。その時にガブリエルは理解したのだ。自分は自らの創造主に勝てない、従うべき存在なのだと。

 ガブリエルは照明の一つもない真っ暗な部屋の中であの頃のことを思い出していた。やはり自分はルキフェルに勝てないのだろうか。天使なんて言っても所詮は人工物。ありふれた建物や日用品と変わらない、モノでしかない。

 小さなため息が漏れる。だめだ。黙っているとぐるぐる思考が回ってすぐにこんなことを考え始めてしまう。

 こういう時は、いつもミカエルが居た。4人作られた人工天使の中でも最強の戦力を持つとされる天使。火を司り、太陽とも結びつけられる。

 ミカエルはまさにガブリエルの太陽だった。根本的なところでネガティブなガブリエルをミカエルは明るい方に引っ張ってくれた。彼女が居なければとっくの昔にガブリエルの心は壊れていた。

 だから、今度は私の番なのだ、とガブリエルは思う。ミカエルを助ける。そして、この理不尽な世界を終わらせる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る