鍵は観測者

統一暦500年1月24日午後3時45分

「神への昇華に必要なのは朝倉灯の魂、そして、あなたの肉体。」

 ガブリエルはプロジェクターを使って説明する。

 部屋の中の机に向かって聡兎、紅音、恵吏が腰かけている。ガブリエルの横で壁によりかかるようにミカエルが立っていて、モニターを挟んで向かい側にラファエル、聡兎の斜め後ろのあたりにウリエル。

 ガブリエルは説明を続ける。

「ただ、神への昇華は素材だけではできない。現在も少しずつ彼女の魂は神への昇華の過程を進みつつあるけど、それは微々たるもの。ここから神に至るまではこの調子だとおよそ300兆年かかると考えられる。もちろんそんなに待つことは不可能。その肉体は老衰で死んでしまうだろうし、それ以前にルキフェルから隠れているこの状況が長く続くかも疑問ね。だから、鍵が必要なの。神への昇華を一気に進めるための鍵が。魂の昇華の過程のうち、途中のティファレトまでは私たち人工天使の照応を利用して進めることができる。でも、その上にいくには、深淵……ダアトの鍵が必要になる。深淵たるダアトに対応するのが……」

 ガブリエルは私の方を見て言う。

「深淵から世界を観測している存在。それを引きずり出して深淵に照応させる。そうすることで魂の昇華を完了させられる。観測者を引きずり出すには深淵、時間を超越した次元まで介入する必要があるのだけど、それには私たち人工天使だけじゃ力不足。あなたのお母さんの琉吏さんと協力しないといけない。それに、観測者を深淵から引きずり出すのに成功しても彼女が大人しく利用されてくれるわけがない。だから、作戦は成功してからが本番、と思っておくことね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る