きっとなんとかなる、と信じるしかない
恵吏はアカリとの生活に楽しさを見出し始めていた。しかし、彼女は朝倉灯の覚醒と引き換えにそこから消えてしまった。この一件で恵吏は低下しつつあった世界改変への意欲が高まったようだ。この世界は幸せになれる世界じゃない。このままでは大切な人が理不尽に自分の前から去ってしまう。その事実を改めて認識したのだった。
統一暦500年1月23日午後11時15分
「悪いな、今日も会議が長引いちまった。」
聡兎の声には張りがなかった。急に大統領にさせられてから激務の連続で疲れ果てているんだろう。
「おかえり。……お風呂沸いてるよ。」
聡兎が大統領になってから、紅音は聡兎に代わって家事をするという、主婦のような状況になっている。
聡兎もスーツを着るのも慣れてきた。1月3日の就任したばかりのときには新品だったスーツだが、既にくたびれ始めている。
「そういえば、明日はようやく休日をとれそうなんだ。」
統一暦500年1月24日午前9時20分
聡兎と紅音が来たのは東京都地下の施設。恵吏と灯の保護に利用している場所である。もともとの所有者は苑仁だったが、彼の死後に聡兎が相続することになった。
灯は部屋の隅で本を読んでいた。聡兎は言う。
「しばらく見ないうちにだいぶ安定したみたいだな。」
恵吏は灯を見ながら言う。
「安定しすぎている。灯の精神はあの頃から加齢していないはずなのに、たった三週間で精神年齢が上がりすぎてる……気がする。」
灯は本から目を上げる。しおりを挟んでから本を置き、恵吏の方に歩いてきた。
「えっと……大統領さん、いや、聡兎さんって呼んだ方がいいのかな。こんにちは。」
灯はネットワークを通じて全ての人間の思考などの状況を把握することができるのだ。そのため、初対面であっても何も聞かずとも相手の名前を知っているし、性格も把握できる。
「こんにちは。ここの住み心地はどうだい?」
「いい感じですよ。色々揃えてもらったので快適です。」
確かにこれは異常だ、と聡兎は思った。ついこの間まで幼い子供のように泣きじゃくっていたとは思えない。
そんな聡兎の思考を覗いたのか、灯は俯いてしまう。
そんな灯に聡兎は言うのだ。
「大丈夫。きっとなんとかなる。俺たちが、何とかする。」
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