深淵への干渉

統一暦500年1月28日午後9時35分

 ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル。人の手で作られた天使、人工天使たちである。その横に立っているのは佐藤琉吏。神の能力から授けられた聖母の権能をその身に宿す、恵吏の母親である。

 彼女たちが立っているのはネットワーク信号を統括して送受信するための巨大なタワー、その頂点である。東京は他の都市に比較するとかなり入り組んだつくりをしている。上層、中層、下層という感じの階層が多い都市構造、高層建造物が密集して立ち並ぶ東京中枢部。そういう環境であるから電波が通りづらく、他の都市よりも強力な通信機構が必要とされる。だからこのタワーは他の都市にあるものよりかなり強力に作られている。そのタワーの頂点であるここは世界でも最もネットワーク電波が協力な場所である。

 彼女たちは強力なネットワーク環境を求めていた。消去法的に選んだ結果がここだったのだ。

「全ての元凶。すぐに終わらせてあげる。」

 ガブリエルがこちらを睨みながら言う。


統一暦500年1月28日午後9時36分

 琉吏は聖母の加護を天使たちに授ける。これで彼女たちは聖母特攻だとか、聖人特攻だとかの特殊なダメージでなければ無効の状態になった。ただ、これを利用してダメージを受け流しても一定のダメージは琉吏に流れるため、琉吏の体力が尽きるまでという制限が付いてしまう。そのため、ここから先は短期決戦が求められる。

 4人の天使は一定間隔で並ぶ。その足元から魔法陣が浮かび、空間が歪み始める。


 周囲の空間から四大天使は乖離していく。彼女たちの存在は物理次元から離れて行く。

 確実に、こちらに近づいてきている。

 3次元空間から観測すると虚空に真っ黒な球体が出現し、四大天使はその中に飲み込まれていくように見える。この球体は表層たる物理次元と私の居る深淵を繋ぐ役割をするものである。この球体の中は階層的には既に深淵と同等であり、表層の存在である彼女たちが足を踏み入れると大いなる拒絶を受ける。ここで死んでしまうのを防ぐのが琉吏の加護である。


 暗黒の深淵に足を踏み入れた天使たちは速やかに儀式の第二段階に移行する。

 ミカエルはその炎剣を振りかざす。その剣は魂すら裁く。暗黒の空間が引き裂かれ、その外側に存在する物理法則を超越した空間が流れ込む。

 ここで四大天使の元素照応である。一番外側で物理次元の存在が触れると死んでしまう深淵の瘴気を焼き払うのはミカエルの炎。その内側で安全な空気を形成するのはラファエルの風。大気のもとでガブリエルは水を作り、物質が砕けてしまわないよう流動性を与える。そして、それらの中心でウリエルは強固な土の安定性を与える。これを核とすることで四大天使が創造した仮初の天地は安定を得る。深淵での自由な行動が担保される。


 最後の次元の壁をミカエルが焼き払う。もう彼女たちは私の目の前まで来ている。

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