予言の書の完成、そして観測の開始

 3312年10月1日、私は覚えていたこの先の歴史の要点を文字に起こす作業を終える。私はこれを「予言の書」とし、「機関」に預けることにした。

 その頃、美華咲はやたらと私のことを気にかけるようになっていた。私は自覚していなかったが、常に目が血走っている様子が怖い、と彼女は言っていた。


 西暦3312年11月末日、私は物理次元でやるべき全ての作業を終えた。予言の書は完成し、観測を始めるために時間を超越した次元に向かう準備も終わった。私が美華咲に最後の挨拶をしに行ったのは12月24日深夜のことだった。

「そんなの聞いてない!」

 美華咲が叫んだ。

 私は物理次元から離れること、観測を始めることを彼女に伝えていなかった。伝えたら彼女には反対されるだろうと思っていたからだ。案の定だった。

「なんで?私はあなたの頼みを聞いてあげた。無理を承知で世界を統一するだとかいうのを引き受けてあげた。それなのに、あなたは何をしたの?理想の世界に変えるとか、いつも意味のわからないことばかり。……なんで私がここまであなたのためにやってこれたと思ってるの……?」

 私は何を言うべきか分からなかった。

「……クリスマスパーティ、楽しかったよ。」

 そう言った直後、私は頬を思い切りはたかれた。

「……馬鹿。」

 美華咲は泣いていた。統括政府初代大統領となることが内定しているとは思えない、一人の弱い人間だった。彼女の涙を見るのは初めてかもしれなかった。


 西暦3312年12月25日の朝。天気のいい日だった。昨晩のことで疲れたのか、美華咲にしては珍しく日が昇っているのに目を覚ましていなかった。

 私は彼女に最後のキスをした。そして耳元に囁く。

「また、いつか。」


 西暦3312年12月25日午前9時頃だった。私は次元を超える装置を起動する。全ては完璧に動いた。私は時間を超越した次元に到達し、観測を始めた。

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