受け継がれるもの

 私が物理次元を離れた後、神の継承権は私の手を離れた。一時的に美華咲が神の継承者となった。

 完全に物理次元を離れたら私の手から神の継承権が離れてしまうことは想定内だった。子を残さないまま去ってしまっては継承権の保持者は神の能力が適当に選んだ誰かになってしまう可能性があった。そのため、私はその対策を講じていた。

 まず、一時的に美華咲に継承権を渡す。これがクリスマスの夜の”儀式”である。そして時間を稼ぎ、美華咲との子を作ったのだ。

 私は去る前に私の遺伝子情報と、手紙を残しておいた。

 12月25日の朝、ようやく起きた美華咲が私の手紙を見つけたところを見てみよう。


西暦3312年12月25日午前9時54分

「……そんな……嘘……」

 動作を終えて静かになっている次元転移装置を見て、美華咲は膝から崩れ落ちた。彼女は慌てて来たために服を着るのも忘れて裸のままである。

 彼女の目尻から一筋の涙が伝い落ち、床を濡らした。

「……馬鹿…………嘘つき……。」

 弱々しくそう言っていた彼女は装置の横の机の上に一枚の紙を見つける。手書きで書かれていた内容を読み、彼女は呟く。

「……馬鹿……。」


 西暦3313年1月1日、統一記念式典が開催され、統一暦が開始された。美華咲は初代統一政府大統領に就任した。しかし、彼女はすぐに産休に入る。


統一暦8年10月7日午後7時15分

 美華咲の娘の誕生日パーティである。既にこの世界を離れてしまった大切な人に似てきた娘の顔を見ながら美華咲はぼんやりしていた。

「ママ!ねえ、ママったら!」

「……ん?」

「……またお母さんのこと考えてたの?」

「……あはは、瑞咲みさきの前じゃ隠し事できないなあ。そう。瑞姫みずきお母さんのこと考えてたの。……今も見てるのかな、って。」

 美華咲は窓の外の空の向こうに目を凝らしてみる。もちろん、何も見えるわけがなかった。

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