WW5

 西暦3293年2月3日、米国は中国に対して宣戦布告する。FIF加盟国はこれに対しインターネット上の生活を守るとして中国と共同戦線を張ることを決定。こうして米国の同盟諸国とFIF加盟国の対立という形の第五次世界大戦が始まった。


 戦争が始まった、と聞いたときは私は何も理解していなかった。自慢ではないが、私は当時からシュレディンガー方程式を理解する賢い子供だった。ただ、恥ずかしいことに私の知識は理学系、特に物理のみで国同士のいがみ合いとかはいまいち理解できていなかった。ただ、彼女は違った。

 赤坂美華咲みかさ。のちに地球統括政府を立ち上げ、その初代大統領になる人物である。彼女と私は幼馴染というやつだった。彼女は活発な性格、私はいつも引きこもってばかりという点も、彼女は社会科学系に興味があるのに対し私は理系という点も異なっている。幼馴染という接点がなければ会うことはなかったんじゃなかろうか。

 彼女の家は名家というやつだった。赤坂グループはその系列のみで一つの国ほどのレベルの金が動くと言われている。戦争が始まってすぐに私は赤坂家に預けられた。彼女と一緒なら安全だ、と私の両親は言っていた。私は理解できなかった。それなら父と母も彼女の家にお世話になれば良いのではないか。なぜ私だけ預けられるのだ。

 のちに美華咲に教えてもらったが、私の両親が通信技術系の研究者だったことが原因なようだ。第五次世界大戦はサイバー戦争という呼ばれ方もあるように、ネット操作技術を持った人間は直接の戦力になる戦争だった。私の両親は戦争に兵士として駆り出されたのだった。私が預けられた一週間後、両親は職場の爆破テロにより死んだ。

 私はそれから自室に籠ってネットワークの研究を始めた。赤坂邸の地下の巨大金庫には大量の文献が残されており、資料には事欠かなかった。その文献の中に見つけたのが朝倉麗理華りりか……私の先祖にあたる科学者の論文である。その論文の内容は多岐にわたるものだった。物理学、生物学、数学……そして、魔術。それらを読み込んでいるときに思いついたのが、神を造る方法であった。朝倉麗理華が残した論文が示唆する「神」とされる者の存在、そして一定数の存在を繋ぎ「信仰」を集めることで上位次元に強い刺激を与えるられるようになること。世界には同時に一人のみ「神を継承する権利」を持つ人間が存在していること。これらを踏まえて私が導いた神の創造の方法である。

 まず、人間の思考を繋ぐネットワークをつくり「信仰」とする。そこに継承権を持つ存在を接続することで神を造る下地を完成させる。ここまで理論が完成したのが西暦3302年12月25日。

 美華咲に聞いた話だが、それまで私はずっと泣きっぱなしでキーボードを打ち続けていたらしい。


 西暦3302年12月31日。世界各国は疲弊しきっていた。この時点で世界人口は戦争以前の一割にも満たない6億人程度まで減っていたのだ。この日が第五次大戦で最後の核爆弾が落とされた日だった。東部標準時14時25分、フロリダに落とされた第五次世界大戦最後にして最強と言われる爆弾。

 翌年1月4日、アメリカはFIFに対し和解を申し入れた。同時にネットワーク分割条約の運用停止が決定した。

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