戦争の開始

 忘れもしない、西暦3293年。その戦争は始まってしまった。戦争が始まったとき、私は5歳くらいだった。それでも、何か良くないことが始まったんだと、そういう気配はひしひしと感じていた。


 戦争の発端はインターネット上だった。

 当時、全ての機器はネットを介した管理が主流になっていた。巨大なサーバーを必要としないネットワーク構築法が確立され、物理的な損傷を受けてもネット上のデータは影響を受けなくなっていた。人々の活動の場所は仮想空間上の割合が高くなっていたこともあり、国という枠組みの権力は弱体化していた。

 西暦3290年9月1日、アメリカ主導のもと国連はインターネット分割条約を成立させた。それまでネット上には国という区切りは全く通用しない状態になっていた。この条約はそこに国境を作ってしまおうというものである。その方が管理しやすいだろう、と。

 それに反対するもので代表的な国は英国である。分割の仕方が米国にとって優位すぎるのではないか、というのである。実際、アメリカに本社を置く通信系企業は他国に比較すると多く、それがアメリカが受ける利益を他国より大きくしてしまっていた。

 条約に反対する各国はネット上における自国の利益を守ろう、ということでネット上の利益の再分配を目的とした組織、自由インターネット連盟(FIF)をつくる。この動きに米国は反発する。FIF加盟国内では従来同様に制限のないネット利用が可能なため多くの国と地域がこれに加盟し始めていた。これにより米国の通信企業にはFIF内に本社を移そうという動きまで出てきてしまったのだ。

 3292年10月22日の昼過ぎ頃。米国大統領公邸に対するドローンによる爆破テロが発生する。これにより当時の米国大統領を含めた百人以上が死亡する。すぐに犯人の特定が行われた。そして判明したのがFIF加盟国の一つであった中国の軍のサイバー対策部からドローンが操作されていたらしい、ということである。これが本当だったのかは不明である。米国の調査が正しかったのかも怪しいし中国軍ではない第三者が中国軍からの信号と偽装してドローン攻撃をしたということも考えられるから。

 アメリカは中国に対してこのことを追求。もちろん中国もこれを認めない。米国が中国に宣戦布告するのではないか、という噂がSNS上で溢れた。そんな噂が世界トレンドで上位に食い込んできた頃、米国の政府施設を狙ったテロが次々に発生し始めた。FIF内で最大の通信技術系企業を有する中国が米国に討たれるということが起きたらネット生活が悪化してしまう。FIF加盟国の民間人の間ではそんな話がされていたのだ。先に米国政府を倒してやろう、という話である。

 ついに米国が動いたのは3293年2月3日。米国は民間人のテロ対策のためテロに使用されうるものの販売を停止するよう勧告した。それに応じなかったとして米国は中国に宣戦布告したのだ。

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