安穏な時間の終わり

統一暦499年12月31日午後3時

 今年も残すところあと数時間か、というのは日本時間の話。早乙女在理沙は年末だろうが関係なく仕事である。しかしそんなことに文句を垂れ流すような彼女ではない。ネットワーク管理というこの仕事を続けることには亡くした同僚の意思を継ぐ、そんなやりがいを感じていた。

 在理沙は今日もモニターの前でプログラムを走らせている。画面を埋め尽くすのはリアルタイムでネットワークの動作状況を示しているログの羅列である。

「……ん?」

 在理沙は一瞬で流れていくログの中にほんの少し違和感を覚えた。しかし、何か異常があれば反応するはずのAIたちは何の反応もない。念のため在理沙は該当するログをAIたちに再調査させてみるが、当然異変は検知されない。

 在理沙は膨大な量の仕事と並行して違和感の原因の調査を始める。


統一暦499年12月31日午後6時

 炬燵に入って昼寝していたアカリは目を覚ました。隣では恵吏がまだ寝ている。恵吏を見るアカリは何を思っているのか。

 平和な時間だった。ただ、私は知っている。物語を観る者として、知っている。この平和な時間はもう続くことはない。

 恵吏の部屋に音もなく侵入した正体不明の機動部隊。朝倉灯の肉体は15歳の少女でしかない。武装した部隊に抵抗できるわけがなかった。

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