「式典」編

年末

統一暦499年12月28日午前10時50分

 年末である。ついこの間まで世界大戦だったとは思えないほどのゆったりとした時間が流れている。

 戦後処理についてだが、敵が「消滅」したため賠償金等が発生することもないまま被害を受けた各地の修復作業=戦後処理という状況である。また、「儂の曾孫が戦争に関わっていたらしい」ということで赤坂祐輔の経済的な支援がかなり大きい。そのおかげで市街地には大きな損害がなかったというのもあるがスイスの復興も来月には完了するということである。

 ただ、当の曾孫たち――聡兎と紅音は、そんなことは知らないといった感じで暖かい部屋の中でのんびりとゲームをして寝るといった感じのぐうたらした生活をしている。紅音は髪の色を変えた。地毛である黒髪に戻し、インナーカラーにマゼンタを入れている。聡兎は「また髪色を変えたのか」程度にしか思っていないが、彼女なりの想いなり何かが少なからずあるんだろう。

 一つ戦前と違うところは、ネットワークの管理がACARIの手にないことである。これはアカリが自ら申し出たことだった。一つは「自分の状態が安定しているのか定かではないのに安全なネットワーク環境を守ることができるとは言えない。」そしてもう一つが、「私でなくとも何事もなくネットワークを管理できていた」ということである。後者に関しては、アカリがネットワーク管理機構(仮)のリーダーである早乙女在理沙に対して配慮したものかもしれない。

 現在のアカリが可能なのはネットワークの情報を閲覧すること、そして権限の弱いネットワーク操作。仕事がなくなってほとんどニートのような状態のアカリは恵吏の部屋に居候して何もしなくていい時間を謳歌している。

 エルネスタはアカリの措置を保留ということにしている。恵吏に愛想が尽きたというのもあるんだろうが、統一暦500年記念式典で忙しいというのが本当のところであろう。ついに500年目を迎える統一世界を祝う式典。戦争が終わったばかりで色々と慌ただしい中だが準備は整いつつあるようだ。


統一暦499年12月29日午前1時

 ニューヨークの中心部、500年記念式典が開催される予定の劇場である。深夜のこの劇場の前に立っている男が居る。金髪で美形。高身長というのもあって見た目はとても良い。

 目を瞑って何かを考えていたが、不意にニヤリと笑うとそのまま帰って行ってしまった。

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