戦争は終わる

統一暦499年12月24日午後5時30分

「敵戦力の完全な消失を確認。我々は、この戦争に勝った……ということでいいんですかね。」

 エルネスタは緊急会議の場で言う。

「消えてしまったのでは戦争する相手がいなくなったわけですから、そういうことでしょうね。」

「意義はありませんか?」

 返答はない。消えた、というのがそのまま「虚空に消えた」ということを指しているのが意味不明であるため反論しようにもそもそも理解できていないというところか。

「それでは異議なし、ということで戦争終了の声明を出す方向で調整しますか。」


統一暦499年12月25日午前1時50分

 ベッドの上のアカリが目を覚ました。ここはミカエルたちに運ばれた街のホテルである。ネットワークを通じて何か超越的なものがこの世界に降り立っていたような痕跡を感じるが、その前に。

 アカリの膝に頭を乗せるようにして恵吏が眠っていた。アカリは恵吏の頭を撫でる。何かを思い出したのか、アカリは呟く。

「メリークリスマス。」


統一暦499年12月25日午前2時

 テレビの向こうのエルネスタが宣言する。

「スイスを本拠地としていた敵戦力の完全な消失を確認しました。これをもって、この戦争の……第六次世界大戦の終戦を宣言します。」

 執務室でそれを見ていたルキフェルはすぐにテレビを消す。

「……忌々しい。」

 バタン、と扉を開けて研究員が駆け込んでくる。

「もう少し静かにできないのか!」

 叱責され、研究員は小さくヒッと声を上げる。

「そ……その……面会したいという方が……」

 研究員の後から何者かが部屋に入ってくる。研究員は言葉途中で彼女に押しのけられる。

「これは……総統様じゃあないですか。」

 小鳥遊たかなし栖佳羅すから。「機関」の100代目総統である。

「今更何をしに来たんですか?流石にこの僕も負けですよ。量産機たちが消えてしまったのでは戦争は継続できない。今の僕はスイスへの影響力も1ミリも残っていない。」

「別に戦争の責任を取れとか賠償金をくれとか言いに来たわけでもない。一つ確認したいことがあっただけですよ。」

「ほう……?」

「あなたの予言の書にはどこまで書かれていたのか、って」

「…………何のことやら。」

「うん、知らないならいいんです。どうせもう関係のないことなので。」

 それだけで栖佳羅は帰ってしまった。

 栖佳羅が帰った後でルキフェルは舌打ちをする。

「次の計画です。」

「……え?」

 栖佳羅に押しのけられたまま部屋の隅で尻もちをついていた研究員が間抜けな声を出す。

「新しい計画を進めるんです。今すぐチーフたちを呼びなさい!」

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