両陣営の動き
統一暦499年12月24日午後11時50分
「あ、そういえば」
恵吏は静かに降り始めた雪を眺めながら言う。
「今日って……」
ただ、その言葉を最後まで言い切ることはできなかった。
統一暦499年12月23日午前6時
ルキフェルはいつも通りの時間にいつものように目覚ましもなしにぱちりと目を覚ます。そしていつものようにカーテンを開けて窓の外を眺める。その目的は朝日を眺めるためではない。そもそも曇っている日だってある。ルキフェルはその窓から眼下の大通りを忙しく駆け回る下々の者共(とルキフェルが認識している、大半は彼の元に通勤する職員たち)を眺めているのである。それを見たルキフェルは忙しいことに対して憐れむでも、反対に、彼らが忙しく働いているのだから自分も頑張ろう、などと気合を入れるでもない。ただ、人間がそこに居ることを見届ける。それ自体に満足を感じている。そんな満足感の中で朝のコーヒーを飲む。
それが彼の朝のルーチンだったのだが、その朝は違った。
まず、寒かった。暖房は一応は動いているようだが、動き始めたばかり、といった感じである。
カーテンを開けて目の前の通りを眺めてみる。しかし、いつもより下々の者共が少ない。はて、おかしい。それに、いつもなら備え付けのコーヒーメーカーが勝手に用意するはずのコーヒーがない。
不服、といった表情のルキフェルはすぐに執務室に向かう。
統一暦499年12月23日午前6時5分
執務室では部下たちが何やら忙しそうにしている。
「何が起きたんです?」
「継承者様と神の器が逃走しました。」
ルキフェルは一呼吸おいてから言う。
「その程度。想定内ですよね?」
「継承者様が追跡防止トラップを設定しているのかこちらからでは位置情報を特定するのが難しく……。」
「そんな言い訳はどうでもいい。探すのです。……早く!」
統一暦499年12月23日午前10時
ニューヨークの中心に聳え立つ、この星のほとんどを掌握する政府のビル。その中にある大統領執務室では12歳でありながらこの星の頂点と呼んでも差し支えないような地位まで上り詰めた少女、エルネスタ・アインシュタインが仕事に追われていた。
そのほとんどが現在進行形の世界大戦である第六次世界大戦に関係している。
今月2日に開戦したこの戦争は、当初は敵であるスイスの正体不明(と公式には発表している)軍事政権の戦力にかなり押され気味だった。何せ、相手は通常兵器がほとんど効かない量産型人工天使(これも政府の公式見解としては「正体不明戦力」である)、それも一人でも街を一つ灰燼に帰すことが可能なものが総数で1万以上。
だが、政府の最高機密でもあるエルネスタ直属組織「機関」を投入したことで千強は改善。この「機関」というのは西暦1347年に当時のローマ教皇のもとで発足した異常現象研究機関が前身となっており、その名の通りこの世界に存在する一般的な物理法則からはみ出したものを研究し、利用するというのが目的となっている。彼ら「機関」が利用するのは物理法則に従わない兵器。神話の武器のレプリカだとか、所謂”魔法”であるとか、そういった類である。異常存在には異常存在を。毒を以て毒を制す、ということである。このおかげで少しづつではあるものの大きな損害を受けずに人工天使を殺すことができるようになった。しかし、いくら殺しても次から次へと補充される。これまで削ることのできた人工天使は総数およそ75000。人工天使が居る限り戦線は硬直状態である。いつになったら戦争が終わるのだろうか……。と思案していた時だった。
大統領執務室のドアが開き、入ってきたのは「機関」100代目総統、
「ルキフェリウス・ウェスト……ルキフェルの直属部隊が動いているのが確認されました。」
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