雪、闇、凍える星

統一暦499年12月23日午後10時20分

 恵吏は目を覚ました。が、真っ暗だったため自分が目を開けているのかどうか分からないくらいだ。

 手探りで自分の携帯端末を探し、画面の光で部屋の中を照らす。隣ではぐっすり寝ているアカリ。その寝顔を見ると少し安心する。

 昼の間、恵吏たちは北に進み続けた。途中で車を盗んで雪の荒野を進み続けたのだった。そして今居るのはモスクワ中心部から500キロメートルほど離れた場所。アカリが見つけてくれた破棄された核シェルターである。かなり寒かったため二人で抱き合うようにしていて、いつの間にか眠ってしまっていた。

 少し外に出てみると、星の明かりくらいしか見えない闇が広がっていた。これも第五次世界大戦の影響の一つである。大戦では世界各地が戦場となった。そのおかげで多くの街が灰になり、無事だった街も生活インフラが壊滅したことで物資の集まっている都心部に集まるようになった。それから人々は廃墟となった街に戻ることはなく。そんなわけで主要な大都市以外の場所から人間が消えた現在の世界が完成した。

 中に戻った恵吏はアカリに抱き着いた。ただ単に寒かったというのも当然あるが、他者の温もりが欲しくなったからというのが大きいんだろう。

 寝ぼけまなこのアカリは恵吏を抱きとめる。彼女もまた、人の温もりを欲していたんだろう。


統一暦499年12月24日午前7時15分

 日が昇って見えてきたのはどこまでも広がる白銀の針葉樹の森。

「行こう。」

 恵吏たちが来た時の車のタイヤ痕は積もった雪が消してくれた。考えるべきは前に進むことだけである。


統一暦499年12月24日午後3時

 緯度が高い地であるため、既に日は沈んでしまった。そして、

「……あれ?」

「エンジンが切れたみたいですね。」

「どうしよう。」

「でも運がいいですよ。少し北に大きな川があるのでそれを伝って海まで行けば街に出られるはずなので。ただ、歩きだと街に着くのはかなり深夜になりそうですが。ちょうど日をまたぐくらいになるんでしょうか。」

 それを聞いた恵吏はあからさまに顔をしかめる。

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