記憶喪失と関係性

統一暦499年12月2日午後0時20分

「誰……?」

 赤坂紅音は絞り出すようにそう言った。

 頭がくらくらしている。体が重い。恐らく長いこと眠り続けていたことによるものだろう。紅音本人は自分がずっと眠っていたことさえ覚えていないのだが。

 一通り記憶が喪失されていることを確認した聡兎の落胆した表情を紅音は忘れることができなかった。


統一暦499年12月15日午後2時

 自分の名前は赤坂紅音……らしい。聡兎という人を助けようとして大怪我をし、それからずっと昏睡していた……らしい。赤坂聡兎から聞いた限りではそういうことらしいが、何一つ覚えていない。

 怖かった。何も信頼できるものがないことが。自分自身という一番近くにあるものですら危ういのだ。全てが崩れてしまいそうに思えた。

 そんな状態の紅音が恃みとしたのは赤坂聡兎だった。従兄弟だというこの男。守る、と言ってくれた男。

「……?」

 聡兎と目が合ってしまい、慌てて目を逸らす。

 確実に紅音の聡兎に対する感情は大きくなっていた。


統一暦499年12月23日午前8時

 その日の朝、聡兎はどこかそわそわとしていた。突然「逃げちゃった」と連絡されてもどれが正しい反応かなんてわからないし、当然と言えば当然か。

「紅音。」

「……?」

「少しだけ怖い思いをさせちゃうかもしれないが、大丈夫か?」

「そ……聡兎さんが一緒なら……。」


統一暦499年12月23日午前8時20分

「どこに行くのですか?」

 案の定、というか、聡兎と紅音は外に出ようとしたところで見張りの量産機の一人に呼び止められる。

「なに、ちょっとデートに行ってくるだけだ。」

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