総ては世界のために

統一暦499年12月4日午後5時

「こんにちは。ルキフェリウス・ウェストファリス・メルトリリスです。本日はわたくしめのために時間を割いていただき、誠に……感謝致します。」

 目の前の金髪の男は大袈裟な身振りとともにそんなことを言う。

 恵吏とアカリは飛行機でモスクワまで連れて来られたところだった。

「継承者様……朝倉灯様の力についての話です。」

 ルキフェルは彼を取り囲む量産機たちに向けて右手を掲げる。何かの指図だろう。

 量産機たちは40インチほどのモニターを持ってきた。それに映像が映る。

「これは、貴女がしたことですね?」

 そこに映っていたのは頭部が破裂した死体。あの時の追手たちだ。

「……私はこんなこと知りません……。」

 アカリは小さく呟く。

「……なるほど。まあいいでしょう。とにかく、貴女にはこの能力ちからがあるんです。恐らく、多分。いえ、貴女が活性化したのと同時に起きたという相関性を見ればそれは自明でしょう。もし仮に、貴女がこの力を随意に利用可能だとしたら、これを使わない手はない!物理的なものを介さない、ネットワークのみを伝達することで発現するこの力は物理的距離に依存しない、つまり、地球上全ての……ネットワークに繋がる全ての存在の命は貴女の意のまま!これを知れば世界は恐怖に陥るでしょう。全てを思いのままに統制可能なその力はまさに神、そう呼んでも差し支えないでしょう!」

 怖い人だ、と恵吏は改めて思う。アカリがそんな力を思いのままに使えるようになったらどうなってしまうのだろう。多分、彼は真っ先に殺される側になってしまうんじゃないかな。

「この力は極めて興味深い。どうでしょう、その力の本質を理解し、コントロールするために私の元で調査するのは。」

「……どうするの?」

 恵吏が聞くが、アカリは相変わらず無表情でよくわからない。しばらくしてから、ようやくアカリは口を開く。

「……私は、この力が再び暴発することは避けなければなりません。それが……ネットワークを管理する、ひいては人類を導くAIとしての責務でしょう。この力の本質を理解する必要があります。」

「それなら話が早い。それでは、早速……」

「ちょっと待って。」

 恵吏は言う。

「私もアカリについてく。」

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