探せ

統一暦499年12月2日午後4時

「大丈夫、逃走方法が想定外だっただけ。移動速度が光速を超えていなければ逃走した先は絞ることができる。」

 在理沙が栖佳羅に返信した内容である。

 そして、在理沙は修正した「計画」を送信する。それを元に「機関」の特殊部隊は動き出した。


統一暦499年12月2日午前8時

「ほら、ちゃんと食べな。腹が減っては戦ができぬってやつ。」

 琉吏が用意した朝食がテーブルの上に並んでいる。

 おいしそうだとは思うのだが、恵吏はいまいち食欲が湧かない。戦なんてしたくない、と思っていても口には出せない。とはいえ、昨晩から(スイスは夜が明けたばかりだが、日本時間で16時と言えばわかりやすいだろうか)何も食べていないので空腹ではある。

 横を見ると、アカリはバーチャル空間のアバターはいつも笑顔のくせに相変わらず無表情でご飯を食べている。聡兎はまだ目を覚まさない紅音に栄養サプリメントを飲ませている。

 恵吏は小さなため息をついてから食事を食べ始める。

 琉吏はそんな恵吏を満足そうに見ていた。


統一暦499年12月2日午前9時

 スイスの外交担当官は憔悴していた。統括政府から脅しじみた要求をされているのだ。

 話によると「政治上重要な人物がスイスに亡命した」ということであり、「10時までにその人物の場所を特定」しなければ「部隊を投入してこちらが作戦を行う」らしい。あと1時間で亡命してきた人物を特定できなければ得体の知れない特殊部隊が国内で暴れることを了承しなければならないのだ。

 あまりにも唐突で、あまりにも時間が足りない。しかも、その人物を探すので情報をくれ、と言ったが「確実に見つけられると断言できないのなら情報を渡すことはできない」と言われてしまった。あと一時間で、情報が漏洩しないような少人数で、国防システムに一切関知されないように侵入するような存在の居場所を特定できる、そんなことを確実に可能であるということを相手方にプレゼンするところから始めねばならない。

 内密の緊急会議が開かれた。

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