いちごジャムを舐めるダイオウグソクムシのマネ

統一暦499年12月2日午前9時20分

 スイスに「機関」の特殊部隊が入国した。スイス側が根負けしたのだった。

 この地は少々特殊な環境にある。元はと言えば永世中立となった時点に遡るのだが、現在の状況になった直接の原因は第五次世界大戦である。この戦争の原因はインターネット上の利権争いが大きいと言われているがその真相は明かされていない。どんな理由があろうとくだらないものであることに変わりはないから知ろうとも思えない。

 とにかく、その時もスイスは中立だった。そして戦争に関わった諸国が赤坂美華咲みかさの元で統一に向かった時も戦争に関わらなかったこと、中立という立場があったことでその流れに乗り遅れ、現在のように世界でも数少ない統括政府が関わらない土地となっていた。

 現在、ここはネットワークこそ通じているもののACARIによる統一された管理システムの利用率はほとんどゼロである。ここでは統括政府が迂闊に動けないのと同時に、ACARIにとっても少々やりづらい地なのである。


統一暦499年12月2日午前9時50分

 ぼーっとSNSのタイムラインを眺めていた恵吏の袖をアカリが引っ張る。

「……ん?」

「ちょっと貸してください。」

 そう言ってアカリが恵吏の携帯端末を操作して見せたのは、SNS上のある投稿だった。特におかしな内容ではなく、スイス、ジュネーヴの路上で撮られているらしい「板チョコを食べる南京虫のマネ」なる謎の動画だったのだが。

「ここです。」

「……?」

 そう指をさされても特に何もないようにしか見えない。

「……これでどうですか?」

 アカリが端末に手をかざすと端末が勝手に操作され、動画の一部がズームアップされる。

「……男の人?」

 窓に反射している歩行者の男性だった。しかし、恵吏はその男性に全く覚えがない。

「知らないのが当然ですよね。恵吏さんは彼とは1ミリも接点がなかったんですから。」

 じゃあなぜ見せた、と思ったがアカリは続ける。

「彼の職業は警察とされています。ただ、その勤務地はニューヨークとされているんです。」

「別に旅行したっていいんじゃないの?」

「彼は警察として仕事をした記録が存在しないんです。そして、彼と同じように警察として職業が登録されているもののその実態の記録が存在しないという人間がここ30分程度で50人程度スイスに入国しているようなんです。……ここから先は完全に私の推測なのですが、彼はエルネスタが私たちの追手として使っている特殊部隊の一人なのではないかと。」

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