彼女の介入、その結果

統一暦499年12月2日午前7時

 恵吏はまだ脚がガクガク震えている。一時間以上数千メートルの上空を高速で飛んでいたのだ。飛行機などではなく、その頼みの綱は捕まっている腕だけ。加護があるからダイジョーブ、という趣旨のことを言われたがそんな正体不明のものを信頼できるわけがない。でも、とりあえずは無事にスイスの地に降りることができたらしい。

「この国には私の家の一つがあるんだよね。」

 琉吏の言うことを信じるならばそういうわけで衣食住の心配はしなくて良さそうである。


統一暦499年12月2日午後3時

 エルネスタは頭を抱えていた。

「やられましたね……。」

 彼女が見ていた報告書には、「不明能力者の介入により人工天使脱走」「不明能力者の補助によりACARI逃走」とあった。

「しばらく彼女の動向を確認できないと思ったら、やはり月帰還のときから何らかの計画を開始していたと考えるのが妥当なんですかね。」


統一暦499年12月2日午前9時

 モスクワのどこか、とある組織の本部である。一人の男が研究員から報告を受けていた。

「ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルが逃げ出した。……そんなことは良いんです。僕が気になるのはその原因なんですよ?貴方はテーブルの上のリンゴを指して『これは何ですか』と聞いたら『リンゴです』と答えるタイプですか?そういうことです。」

「……も……申し訳ございません。」

 言い詰められた研究員は焦って端末を操作する。慌てているせいで変な操作をしたせいなのかピコンピコンと鳴らしているのをその男は不機嫌そうに見ている。

「こっ……こちらがその映像になります!」

 その映像は研究施設の監視装置の一つだった。爆風で壊されたのか、すぐに画面が砂嵐になってしまうが一瞬だけその姿を捉えていた。

 茶髪の女。金属製の壁をいとも簡単に破壊して侵入し、その爆風で監視装置も一瞬で破壊する。それは、人工天使たちの力を超える可能性すら感じるものだった。

 それを見た男は言う。

「彼女を探しなさい。そしてその力を調べるのです。彼女は人工天使以上に僕の計画に使える可能性がある。」

 そう指示したルキフェリウス・ウェストファリス・メルトリリスは不気味な笑みを浮かべた。

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