侵入者

統一暦499年9月15日午後5時21分

 不意に、大きな警報音が鳴り響く。

紅音あかね!」

「ごめっ……て流石にアカネも存在しないセンサーに引っかかるわけないじゃん!」

「じゃあこれは?!」

 想定外の事態に狼狽える恵吏えりと紅音の横で栖佳羅すからは冷静に現状を推測する。

「紅音さんの言う通り。この部屋にはどこにもセンサーは存在しないし、カメラも死角。恐らく、私たち以外の侵入者でしょうね。」


統一暦499年9月15日午後5時23分

 4人の人工天使は慌てて警報を発したセンサーの場所に駆け付けた。そこには、明らかに施設の職員ではない女が立っていた。

 爆発が起きたのか、燃えている壁の前に立っていた。逆光に加え、煙と陽炎でその姿をはっきり視認できない。

「大人しくしなさい!」

 ガブリエルは水弾を撃つ準備をしつつ吠える。

 その女がゆっくりガブリエルたちの方を振り返った。

 ガブリエルはその顔を見た瞬間、似てるな、と思った。茶髪で、どこかダウナーな感じの目。

「ガブリエル!」

 ミカエルの声が聞こえたのと意識を失ったのはほぼ同時だった。


統一暦499年9月15日午後5時30分

 恵吏たちは避難する職員たちに見つからないよう隠れてなんとかやり過ごした。

 隠れていたボイラー室からそっと出る。周りを確認するが、既に全職員の避難は終わったようだ。誰もいない。

 紅音はあることに気づいた。

「……なんか煙くない?」

「……確かに。」

「どこかが燃えているとしたら大変ですね。外壁まで燃え尽きてしまったら外は希薄な月の大気しかない。ほとんど宇宙に投げ出されるのと同じです。」

「それってまずいんじゃない?」

「はい。」


統一暦499年9月15日午後5時30分

「……はぁ………はぁ…………ッ、クソッ……!」

 茶髪の女の前にミカエルが立っている。炎剣を杖代わりにしてようやく倒れないでいる、という感じだ。かなり消耗している。

 ミカエルの周囲には、ガブリエル、ラファエル、ウリエルが倒れていた。

「よくも………、ガブリエルを……ッ!…………許さない……!」

「早く倒れてくれたら良かったのに。私もあなたを必要以上に傷つけなくて済む。」

 ミカエルは右手の赤く燃える炎剣とは別に左手の中に青く燃え上がる炎剣を生成した。

「………………殺す!」

 二本の炎剣を十字に構えて切りかかる。

 しかし、それはその女に片手で受け止められてしまう。

「うーん、聞いてくれないんならしゃあなし。……ごめんね。」

 彼女は二本の炎剣をまとめて握り潰した。

「……なっ?!」

 狼狽えたミカエルには大きな隙ができた。その瞬間、ミカエルの腋に回し蹴りが入った。その蹴りはミカエルが着ていた中世騎士風の鎧を粉砕し、中学生程度の肉体に直接衝撃を与える。

「……ッ、かはっ………!」

 ミカエルは血を吐いて倒れた。

 天使たちが倒れた中、燃え広がる炎で茶髪の彼女は火照ったように赤く照らされていた。神の器の試験機を遠目に見ながら、彼女は呟くのだった。

「もうすぐあの子が帰ってくるよ。『お父さん』。」

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