会いたかった……のかな

統一暦499年9月15日午後5時31分

 恵吏えり紅音あかね栖佳羅すからの三人は月面の研究施設を走っていた。

「やばいよ!めちゃくちゃ燃え広がってる!」

 紅音が叫ぶ。

「……急がないと。」

「消火が不可能と判断されれば、職員たちは緊急避難艇とかで避難を開始するでしょう。急がないと、完全に避難が完了する、つまり地球に帰る手段がなくなりますね。」


統一暦499年9月15日午後5時32分

「もう、こんなことしなくていいようにしてあげるからね。」


統一暦499年9月15日午後5時32分

 炎が燃え盛る通路の奥から何者かが歩いてきた。

「誰……?」

 恵吏は思わず身構える。

「嫌だなあ、折角の再会なのにこんなシチュエーション。でも、こんなシチュエーションだからこそ会えたんだもんね。」

 茶髪の女。恵吏は気づかなかったが、紅音は彼女の顔を見て思った。似ている、と。暗い茶髪は言うに及ばず、目元など顔の構造が似ていた。そしてそれ以上に、彼女が纏うどこか気だるげなオーラが恵吏とそっくりだった。

 満面の笑み。しかし、寂しそうな、悲しそうな、そんな雰囲気を醸し出しつつ彼女は言う。

「会えて嬉しいよ、かわいいかわいい私の娘。」

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