エピローグ2

 ポンッと小気味のいい音がして、シャンパンが開けられた。


 格天井や高貴なシャンデリア、マントルピースなどの近代日本の浪漫があふれる小宴会場は、先ほどまでの緊張感が弾け、若者たちのパーティっぽい時間が流れている。あちこちで好き好きの会話に花が咲き、私も知り合いから初対面の人まで、様々な人たちに気さくな声をかけてもらった。


「ねえハミちゃん、私たちもいつかこういうふうにしたいですね」


 由美はそう言ってシャンパンを飲んだ。こんな場でいつもの酔っ払いになられてはたまったものじゃないから、私はグラスを没収する。


「あーっ、なんでですか!?」


「ここでいつもの由美ちゃんになられたら、父さんも母さんもどう言うかわかんないもん」


「何も言わないですよ! 二人ともすっごく優しい人だもん」


 そうだった。あのクソ親父、由美がどんなに可愛いか知るや否や、鼻の下を伸ばしてデレデレして、……人生でいちばん腹が立ったのはあの時かもしれない。


 向かいに座る由美は小さく溜息をついた。


「まあいいです。今日はお酒を我慢します。ただし、東京に戻ったらぜったい飲みに行きますからね」


「はいはい」


 由美のシャンパンを飲み干した。こういう時じゃないと、シャンパンなんて飲めないから。


 そうこうしていると景亮さんがやってきた。今日の主役、新郎様だ。


「映子さん、今日は来てくれてありがとう」


「いえいえ、こちらこそ呼んでくださってありがとうございます。公子のあんな顔見たことなかったからびっくりしましたよ。あれ、景亮さんにしか見せませんよ」


 私がそう言うと、景亮さんは顔を真っ赤にする。可愛い人だ。


「こちらは?」


 私と向かい合う由美に気がついて景亮さんは眉を上げた。やっと、由美を紹介できる。


「このコは神宮寺由美です。私のいちばん大切な人……かな」


 恥ずかしげもなく私が言うと、由美は顔を真っ赤にした。

 私のいちばん大切な人が顔を赤くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神宮寺由美は二度死ぬ 宮内優美清春香菜 @yasabikiyosyunnkousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ