第33話 翼or羽

 


「モモ。スキルペーパーを…ってまだやってるのかよ。モモ!このスキルペーパー見てくれ!」


「あっ。はい!」


 俺の声に気づいたようで慌ててこちらに来る。可愛いって言われただけでどんだけ喜んでんだよ。


「【魔法耐性】です!やっぱり魔法が効きにくかった理由は耐性持っていたからですね」


「そうか。まあ武器が手に入ったし次からはこれでやるさ」


 そう言って右肩に担いだ斧に左手で触れる。そして【魔法耐性】を取得し、ベルトの隙間に角を差し込み移動する。ライノマンの角は荷物になってしまうので、世話になったライノマンの角に感謝をしつつも置いていく。


 斧を両手で振ったりして感触を確かめながら移動をする。


「そういえば【飛行魔法】は全然試してませんけどいいんですか?」


 あ。


「忘れてた…」


「えぇー。あんな頑張って手に入れたのに忘れてたんですか?」


「いや、頑張って手に入れたこそ、手に入れたことに満足した上に、練習を後回しにしたから忘れていたというか…。よし、練習するか!」


「大地さん記憶力大丈夫ですか?」


「お前には言われたくない」


【飛行魔法】か。どうすればいいのだろうか。とりあえず足を止め斧を置く。

 目を閉じて飛ぶイメージを…………目を開けてみるが目の前でふよふよしているモモが見えるだけで足は地に着いたままだ。


「モモはどうやって飛んでいるんだ?」


「どうやってって…普通に…?」


「普通にってなんだよ」


「だって!大地さんだってどうやって地面に立っているかって言われても説明しにくいでしょう!?」


「む…。確かに」


「でしょう?」


 なんでこいつは肯定すると眼を閉じで嘴を上に向け、我が意を得たとばかりにドヤるのだろうか。

 それにしてもどうやって飛ぶのだろうか。

 風魔法と重力魔法の飛行を可能とする魔法を集めて飛行に特化させたのが【飛行魔法】なんだよな?なら重力を軽くして身体を浮かせ、風を噴射して移動って感じか?それだとひたすら魔力垂れ流している感じになるが…。

 木の矢や水の矢は魔力で包んで魔力の糸で手と繋げて浮かしているって感じだよな。なら重力を無くす…軽減する魔力の膜で身体を浮かせるって感じか?

 そのイメージで魔法を使ってみた。


「大地さん浮いてますよ!成功ですね!」


 下を見ると浮いていた。

 よしっ。次は移動だな…。風を背中から出す…のか?それとも尻から噴射…はないな。やれと言われてもやりたくない。

 うーむ…。

 身体を傾けて地面と水平に浮く。そして足から風魔法を出すイメージ…。


「少し…進んだか…?」


「えーっと多分…?」


 数センチ進んだ、気がする。

 上手くイメージできんな。飛ぶことに特化した魔法なのに風と重力を別々に考えてるのが悪いのか?

 一度地面に降りてもう一度考え直す。


 イメージ的に例えるなら飛行機だったんだがダメなのだろうか。飛ぶのに必要なのは膜や噴射口じゃなく…羽…翼か?翼を羽ばたかせれば直進も停止も、方向転換もできる、か?重力を軽減して進むための風の魔法が合わさった翼…。

 よし、次はそれで行ってみるか。翼なら風を噴射しなくても羽ばたけばいいんだろうしな。


 ということでやってみたらあっさりと出来てしまった。綺麗な薄緑色の半透明な翼が背中に生えた。それを羽ばたかせると浮き、進んだ。


「おお!おっと!?」


 天井にぶつかりそうになった。だが上手く行った!重力魔法、風魔法が合わさっている飛ぶための翼を作る魔法、か。斧を持ってみるが重さで墜落することもなく浮いたままだ。


「上手くいきましたね!色は違いますが羽根お揃いです!」


「ああ…!不思議な感覚だが悪くない。移動はこの状態でする。戦闘は流石にまだ地に足をつけてじゃないと無理だろうが」


「ずっと飛んで魔力は大丈夫なんですか?」


「翼を作る時に結構持っていかれたが…魔力を翼の維持には使わないのか、使っていても微々たる量なのか、わからないくらいだ。なんとなくこの翼を羽ばたかせるには魔力を使っている気はするが…気にならない程度だし大丈夫だと思う」


「ならよかったです!」


 モモと一緒に飛びながら移動する。贅沢を言うなら二十五階層の様に景色が綺麗な広いところを飛びたいな…。


 その後オーガが出てくるまで飛びながら移動をする。不慣れなせいで移動速度は速くないが…使い続けて慣れたりレベルが上がれば速くなっていくだろう。

 モモも移動速度を合わせてくれ、ふよふよと一緒になって飛ぶ。


「難しいな…」


「慣れですよ慣れ!」


「水泳みたいに高速飛行とか高速飛行魔法とかないのか?」


「高速飛行なら鳥系の魔物からドロップするとおまいますよ?」


「お、そうなのか?」


「はい!ただ【飛行魔法】か飛行可能なスキルを持っていないと【高速飛行】を持っていても使い道はないですけど」


「まあそうだろうな…。高速水泳だって泳げなかったり水に入ることすら出来ないなら死にスキルだもんな」


「はい。大量の魔力と高い【魔力操作】スキルがないと使えない時空間魔法と一緒ですね!」


「……うるさい。そのうちできるようになるんだからいいんだよ」


「まあ確かに大地さんならあっさりと使えるようにしそうですね」


「しそうじゃなくてするんだよ。なんのために地上に向かわないで降りてきてると思ってるんだ」


「大地さんの冒険心が疼いた結果、でしたっけ?」


「それは違うっつったろ。初めはダンジョンの特性かなんかで下に降りてきたのは事実なのかもしれないが、時空間魔法とか色んな魔法を手に入れたくて潜ってきたんだ。だから時空間魔法が使えるようになるまでこのダンジョンを出る気はないぞ。魔力増加系スキルが手に入らなくたってレベルを上げまくれば使えるようになるかもしれないんだからな」


「あ、そうでしたそうでした!じゃあ頑張らないとですね!」


「ああ…。って正面からオーガだ。降りるか」


 地面に降り先制のための魔法を発動し始める。

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迷宮妖精と巡る迷宮探索 酒森 @drunkard

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