第32話 新たな武器
リザードマンの戦闘方法は徒手空拳だった。棍棒がないので俺は初撃魔法で、後は素手で殴り合うしかないな。と初めは思っていたのだが、モモがかなり優秀だった。
風魔法の初撃で足か手を切り落としてくれるのだ。胴体に一度放ってもらったが流石に切断は出来なかったのでずっと初撃で手足の何処かを切り落としてもらった。
そうしたら後は楽だ。バランスを崩したとこに水魔法なり木魔法を撃ち込めば転んでくれる。転んだらもうこっちのものだ。駆け寄り頭を思い切り叩く。もしくは木の矢を頭部に撃ち込んで終わり。
ドロップしたのは【表皮硬化】と【腕力上昇】。もっと粘ればレアスキルが出るのかもしれないが御目当ての魔法スキルが千単位で倒さないと出ないくらいの確率じゃあやる気も起きない。
後は肉も硬くて美味くなかった。腹ごしらえに多少は食べたが早々に階段を見つけた俺らはすぐさま降りた。
二十八階層。
「今度は石壁迷路か。二十五階層、二十七階層みたいに一つの大部屋だけの方が楽…ではなかったか」
「二十五階層は水中の階段とダゴンの群れ、二十七階層は泥で階段が見にくくなってましたからね」
「ああ。でも二十七階層の湿地帯は割と早く見つけられたな。それと大部屋階層の方が魔物が遠目からも見えるから積極的に倒していくなら大部屋の方がいいんだよな。まあリザードマンはこっちに向かってこないやつは放置だったが」
「そうですね。あとはずっと石壁だと景色がずっと灰色ですし、飽きてくるんじゃないですか?」
「飽きる…というよりも気が滅入る感じだな。俺的には二十五階層の自然豊かな感じが一番いい。全てのフロアがあんな感じになって欲しい」
「まあちょいちょいそういう階層もありますよ」
「ならいいが…。んで石壁階層だからオーガかミノタウロスか?いや、ウェアウルフも別に石壁階層でもおかしくはないか」
「そうですね。その三種類のどれかです!」
モモの知識にないのならここであーだこーだ言っていても仕方ないな。とっとと進もう。モモ曰くダンジョンが出来てそろそろ五日になるというし、五十階層まではまだまだあるからな。
歩いているとなにか音が聞こえた。立ち止まり耳を澄ますと微かに規則的な音が聞こえた。
「モモ。何か音….足音みたいなのが聞こえないか?」
「………いえ?聞こえませんよ?」
空耳‥とは思えないがそのまま進んで行くと十字路に当たった。壁に背をつけながら左右の通路を覗いてみると…鬼がいた。
額に一本の角が生え、オークくらいの背丈、筋肉で引き締まった上半身とスカートのような腰蓑。そして武器かなにかをら肩に担いでこちらに向かってきていた。
「モモ。赤茶色の鬼が居たぞ」
「ならオーガですね」
「悠々と歩いてくるが気づいていないのか…?」
「オーガはオークと違って鼻が利くわけでも特別耳がいいわけでもありませんからね。その代わり膂力や近接戦闘が高いみたいです」
「ならここで待ち伏せだな。十字路に現れた瞬間俺とモモで魔法を撃つ。タフそうだしそれだけじゃあ死なないだろうから魔法を撃ち終わったら俺が突っ込む。まあリザードマンの時と同じだな」
「わかりましたー」
俺は木の矢を。モモは火の球。モモ的にはファイヤーボールと呼びたいらしい。それをいつでも放てるようにして待機する。
「来るぞ」
小声でモモに伝えるとモモは珍しく大声を出さず首肯だけで返した。
そしてオーガが視界に入った瞬間魔法を撃つ。
「ガァッ!」
いてっ!って聞こえたのは気のせいだろうか…。転んだりしてくれたらよかったんだがオーガは左腕から血を流しこちらを睨んできた。
頑丈だな…。まあ当たったのが腕だったせいもあると思うが。右腕に担いでいたのは大きな斧だった。棍棒じゃなくて刃のついた武器持ちかよ。どっから盗んできた。
「モモは牽制!」
「はい!」
流石に斧を右手で振り回す相手に突っ込むのは出来るだけ控えたいし、せっかく遠距離攻撃の手段があるので最初の打ち合わせとは違うが下がって木の矢を撃つ。
木の矢は刺さり、モモが俺の後ろからファイヤーボールやウィンドカッター?まあ火の球と風の刃を飛ばすがものともせずに斧を振り回し続けるオーガ。
「強くね?リザードマンだったらとっくに死んでんぞ?」
「頑丈ですね!魔法耐性でも持ってるんじゃないですか?」
「それにしたって矢が何本も刺さってんぞ!」
移動速度は遅い。なのでこんな会話をしながら下がりつつ魔法を撃てるが…。
思い切り後ろに跳び距離を空けてから木の矢を生成する。今度は細く長く、鏃もかえしは着けずただ鋭く細く。そして頑丈に。
「これで…死ねっ!」
矢は勢い良く飛び斧に当たることなくオーガの胸に吸い込まれていき、貫通した。
「よしっ!」
「大地さんまだです!」
「うおぉお!?」
オーガが斧を投げてきた。怖っ!当たらなかったけど下半身が縮み上がった。なんで下半身かって?そりゃあ飛んできた斧が足の間に落下してきたからだ。
「大地さん大丈夫ですか!息子さん生きてます!?」
「うるせぇよ。息子なんて単語どこで覚えてきた!」
「え?男性はそこを息子と呼ぶと知識にありますが…違うんです?」
ダンジョン…そんなどうでもいい知識じゃなくもっと使える知識を与えてやれよ…!
「間違っては…いや、それはいい。とりあえず当たってないから大丈夫だ」
オーガは斧を投げてそのまま生き絶えたようで、すでにドロップアイテムを残し消えていた。
切り落とされても再生してくれるのだろうか…。再生するか。それでも切り落とされたら激痛でショック死しそうだが。あ、いや、そのための【苦痛耐性】と【精神耐性】か?
とりあえずこの斧は貰っていこうか?いや、モモに一応聞いておくか。
「この斧って金属だけど呪いとか平気か?」
「オーガが使っていたやつですし問題ないと思いますよ?というか特殊な効果を持つ武器を持っている魔物なんてボスクラスだけだと思います」
ならいいか。地面に刺さっている斧は俺の顔の高さだ。百五十センチはあるだろう。持ってみると…待てないことはないが結構重量があるし長いから片手じゃ振り回せないな。
「かなりタフだったな。それにこの斧を片手で苦も無く振り回してたし武器持ちは厄介だな。まあ技も何もなく振り回していただけだが」
「うーん。私の知識にはオーガも棍棒か徒手空拳ってあるんですが…なんで斧なんでしょう?」
「ダンジョンの趣味じゃねーの」
「ですかね?」
「なんかお前に与えられた知識とか聞いてるとどうもダンジョンって人間臭いってか…感情豊かな気がするんだよな。お前みたいなのを生み出したこともそうだが…」
「お前みたいってどういうことですか!」
「あーうん。…ほらコンピュータみたいなシステムだけで動いてたら、色んな種類の可愛らしい生き物の姿をした妖精なんて作らないで一律で同じ姿にするんじゃ?と思ったんだ。うん」
「可愛いなんで…全く大地さんはたまにデレますよねっ」
単純でよかった。お前みたいな変な生き物、なんて言ったらまた耳元でピーチクパーチクうるさいからな。
可愛いのは事実だけど。とりあえずなんかくねくねし始めたヒヨコは放っておいて斧を担ぎドロップのところへ行く。
スキルペーパーが一つと、反りのあるナイフのような細い角。この角に関しても一応モモに聞いてみたが金属ではなく魔物の肉体の一部だから呪いや特殊な効果はないとのことだ。
だがライノマンの角より殺傷性は高そうだし、ドロップした肉とかも切れそうだ。それに意外と薄刃だからベルトの隙間に挟んでおけば数本くらい持てそうだしありがたく貰っていく。ここに来てやっと斧とナイフ擬き(角)が手に入った。
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