日向坂で会いましょう

@smile_cheese

日向坂で会いましょう

◆月曜日

僕はなんだかそわそわしていた。

視線の先には幼馴染みの君がいる。

僕は遠くから、電車の窓を手鏡代わりに春の制服をチェックしている君を見ていた。

君は腕に巻いていた真っ黒なヘアゴムでポニーテールに髪を束ねる。


「可愛い…」


思わず声が漏れてしまった。

僕は慌てて口を押さえる。

どうしよう。誰かに聞かれてしまっただろうか。

静電気みたいに一瞬だった。


キュン。


音にするときっとこんな感じだろうか。

僕は君に恋をした。


◇火曜日

学校に向かう途中、横断歩道を渡る君を見かけた。

僕は勇気が出せず、遠くから見ていることしかできなかった。

昔はよく一緒に遊んだりしていたはずなのに。

友達だと思って油断していた。

まさか、一番ありえないと思ってた君に恋するなんて。


信号が点滅し、赤に変わろうとしている。

君は友達と楽しそうにスキップしながら横断歩道を渡り切った。


ドレミソラシド♪


まるで鍵盤の上を歩いているかのように、君からこんな音が聴こえてきたんだ。

いつの間にか、僕の胸には矢が刺さっていた。

一生分の"好き"を使い果たしそうだ。


◆水曜日

僕は眠い目を擦りながら電車に揺られていた。

君のことで頭がいっぱいになって、夜もなかなか眠りにつけずにいた。

今日も僕は遠くから見ていることしかできない。

電車の中に紛れ込んで来たモンシロチョウが君の肩に留まった。

君は両手でそっと捕まえると、開けた窓から逃がしてあげた。


「好きだよ…」


一瞬、君と目と目が合った気がした。

胸が締め付けられる思いだった。

僕の気持ち、気づかれてしまっただろうか。


◇木曜日

昨日、あなたは何て言ったの?

親友に何時間も話したけれど話し足りなかった。

深読みなんかしても意味ないのに。

ふと気づくと一日中あなたを想ってる。


電車の窓に映る自分を見つめて不安になった。

私はとても情けない顔をしていた。

私ってこんなに弱かったっけ?

私をこうさせたのは一体誰のせい?


ねえ、

こんなに好きになっちゃっていいの?


◆金曜日

君は切りすぎた前髪を恥ずかしそうに隠しながら教室に入ってきた。


「奈良美智の絵だ」


誰かが叫んだ。

君は顔を赤くしながら逃げるように席に着くと、机に顔を突っ伏した。


春の風がふいに吹いて、窓のカーテンを膨らませた。

まるで君が拗ねた時のほっぺたみたいに。

子供っぽくなったと泣きそうになりながら嘆く君。


(ソンナコトナイヨ)


どうしてそんなに落ち込んでいるの?

そんなに似合っているのに。

クラスで一番、君が可愛いよ。

どこにでもいるようなタイプなら、こんなに好きにはなれないよ。

そう、他にいないから。君しかダメなんだ。

君だから、こんなに好きなんだ。


◇土曜日

家にいると君のことで頭がいっぱいになって切なくなってしまう。

僕は気晴らしに外へ出かけることにした。

けれど、考えることはやっぱり君のこと。

他のことは何一つ頭になかったんだ。

公園へと続く階段を無意識に昇る。

何段あったかなんて覚えてない。

その階段を昇りきった先に、君がいた。

僕はひどく動揺したけれど、悟られないようにと必死に平然を装う。

日差しの中、ベンチの影で眠っている猫を撫でながら微笑む君。

その瞬間、心の片隅に潜んでいたときめき草の花が咲いた。


「おはよう…」


「あ、うん。おはよう…」


次の言葉が何一つ出てこない。

気まずい空気が流れる。


「私、行くね?」


困った表情を浮かべながら、君はその場を立ち去ろうとした。


「小坂!」


気がつくと僕は叫んでいた。


「明日、空いてないかな?」


なんてことを言っているんだ。

自分でも驚いた。


「大丈夫だけど…」


「久しぶりに2人でどこか出かけないか?」


君は驚いた様子だったが、照れくさそうにうなずいた。


「じゃあ、また明日」


「うん、また明日」


僕は立ち去ろうとした君に再び声をかける。


「待ち合わせ、どこにしようか?」


君は笑顔でこう言った。


「じゃあ…日向坂で会いましょう」


◆日曜日

僕はなんだかそわそわしていた。



完。

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