異世界採用担当【初投稿】

真由

第1話 一年目から人事部!?

「よぉ、航平!!」

大学一年の時から航平と行動を共にする、青川拓巳あおがわたくみである。


「おう、たくみ」


「どうした、冴えない顔して」


(冴えない顔をしてるのわかってるなら話をかけないでくれよ。)

そして、冴えない顔しているのが寺泉航平てらいずみこうへいである。


「いやぁ、まぁな。内定が全然もらえないんだよ」

一番後ろの席に座り、机に顎を乗せブツブツ言う航平。


「お前、コミュ障だもんな。」

そう言いながら、隣に座る拓巳。


(デリカシーがねぇな)


「俺ちなみに、内定10社もらったぜ!」

大学四年間で見たことないドヤ顔を見せる。


「すげぇな。やっぱウェイ系大学生が勝つ時代なんだな。」

航平の言葉を無視して、拓巳はバックを漁る。


(でも、入る会社は1社なんだからどーでもいいけど)

航平は強がりを口に出さない。


「なんかわかんねーけど受かるんだよなー」

拓巳はそう言うとバッグから自己分析の本を航平の頭に置く。


「なにこれ??自己分析?自己分析したってなんも意味ねぇよ」

頭を振り、本を床に落とす。


「なんで?質問答えるとき、自分を知っていればスラスラ答えられるぜ?」


「そういうことじゃなくて、自己分析しても自分がわからねぇんだよ」


「え、なにその異端ぶる感じ。まあ、マイペースに頑張れよ!」


(マイペースに頑張れってもう、7月だぞ。あと3ヶ月で内定式とかある企業だってあんだぞ)


「お前なんか就活する上で軸ってもんないの?」

拓巳は、スマホでFPSをしている。


「軸?軸ってなんだよ」


「軸は軸だよ。んー。なんだろ。これだけは譲れない的な?」


「あー、そんなもんないな。とりあえず働ければいいって感じ。」


「なんだそりゃ。お前仕事続かないタイプだろ」


「そんなことねぇーよ。家庭教師は大学一年から今だって続いてるわ」


「おー、いいじゃん。それをネタに面接で喋ればいいんじゃん?」


「いや、ネタとしては喋りたくない。なんか、4年間続けた理由が就活のためってなんかそれ嫌だわ。なんかね」


「お前、ほんとひねくれてるなー。」


「ひねくれてる??」


「うん。ひねくれてる。俺そんなこと考えたことなかったもん。

じゃあさ、どんな企業に行きたいの?」


「んー、特にないなー。」


「今まで何社の会社説明会に行って、何社の選考に進んだ?」


「10社中10社」


「プッ。。。お前もしかして、説明会で説明受けた会社全部いいと思っちゃう系男子?」


「いや、最近本当にそう思う。どこの会社説明会行っても全部いい企業に見えて選考進めて行っちゃうんだもん。」


「その企業の共通点ないの?


「共通点?」


「うん。流石に10社中10社選考進んでるっていっても、人って好き嫌いあると思うし、価値観も違うと思うから、その企業に共通点あるんじゃないかな?と思って」


「探してなにになるんだよ」


「いいかい。航平くん。そこから、自己分析に繋げるんだよ?」


「え、どういう意味?」


「論理的に考えようぜ。それらの企業にはこんな共通点がある。自分ってこんなところに惹かれているんじゃないか。じゃあ、その感覚、価値観って過去のこんな経験から形成されているんじゃないか?みたいに、辿っていく感じ?」


「あー、なるほど?」


「わかってないなあ。いいか、論理的に考えればそれなりに答えになるんだぜ?これ自己PRで書けるぜ?」


「いや、マジでわからん」


「一目惚れって知ってるか?」

拓巳は、スマホいじりを止めて公平の顔を見る。


「なに急に?知っとるわ。バカにすんな」


「まあまあ、落ち着けって。なんで一目惚れってするんだろうな?」


「え、逆に質問してくるのは困るわ」


「俺は、一目惚れにも基準があるとおもんだ。条件ともいうかな?」


「条件?」


「例えば、好きな人が今までショートカットだったっていう共通点があったとか、目がぱっちり二重だったとか」


「あー、なるほどね」


「それを企業に当てはめればいいんじゃねぇの?」


「ん?」


「だーかーらー。今までの好きになった企業の共通点を探すんだよ」


「はぁ」


「そんで、例えば一人一人が輝いてるとか、出世が早いとか、色々あんだろ?」


「で?」


「ものわかり悪いな。」


「お前の説明不足」


「例えば出世、成長が早いって共通点があったら、なんでも挑戦させてくれるって言い換えられるよな?挑戦させてくれないと出世も遅いし、成長も遅い。つまりは、お前はそういったところに惚れてる可能性が高いわけだ」


「ふーん。その、惚れてる部分がわかったからどーなんの?」


「わかったら、もうそれが軸じゃん。挑戦させてくれる企業じゃないとダメ的な?」


「まぁ、よくわからんから、自分なりに進めるよ」


「あとは、自分のバイトの失敗の経験から軸を見つけんのありだと思うよ」


「はいはい」




大学四年生となると、順調に単位を取得していればそれなりに暇になる。航平は、その一人であった。


(一限終わったから帰るか………)




「ただいまー」

家に着き、戸を開ける。

溜まったゴミ袋を避け、部屋に進み、ベッドに倒れ込んだ。


「あー、就活だりー」

枕に顔を押し付け声を出す。


「バイト時代の失敗談かー」

航平は友人のたくみの言葉を思い出していた。


(そういえばあの3日も続かなかったバイトあったなー)


———————————————

(おっ、時給1000円のバイトじゃん。)


———————————————

日払いあり!高時給の単純作業!

時給1000円〜

週1日から

簡単な作業ですぐに慣れる!

———————————————


(応募しよーっと)



「はい、今回このバイトが初めての方いらっしゃいますか?」


「あっ、初めてです」


「うん、じゃぁ、制服着替えるからこっちおいで」


「はい」


真っ白な帽子、マスク、かっぽう着。


(なんだこれ。目しか見えないじゃん)


「じゃぁ、君こっち来て。教えるから」


「は、はい。」


「今からベルトコンベアでこのプラスチックの小さい容器が流れてくるのね。だから、そこにこの銀のボールに入っているカットフルーツを4個ずついれて欲しいの」


「あー、簡単ですね。わかりました」

航平は言われた通り、ひたすら8時間。休憩を挟み、カットフルーツを容器に4個ずついれた。


(あっ、だめだ。これ鬱になる)


そう思った航平は次のバイトには出勤しなかった。

当時、高校三年生の航平であった。

———————————————————————

(失敗したバイトってこれくらいかなー。唯一続かなかったからな)


航平はなぜ続かなかったのか考えた。


(ひたすら会話もなしにプラスチックの容器と見つめあったからなのかな)


「人と関わる仕事かー」

航平はこう答えを導き出した。


「でも、人と関わる仕事ってなんだ?コンサル?何か違うな。一瞬だけ関わる感じするしなー。飲食?んー、これも数分接客して終わりだしなー。深く長く関わる仕事ってなんだろ」

航平はパソコンをつけ検索をする。


【人と深く関わる仕事】

(検索っと)


【もしかして、、、寂しい?】

(この検索サイトバカにしてんのか?)

バカにされたような気がしながらも、下にスクロールしていく。


【人事部の仕事】


(人事部って採用の仕事か。ちょっと興味あるかも)


【採用した人が生き生きと働いているところを見ると嬉しい】



(あー、そういえば自分の生徒がいい点数取って来た時、めちゃくちゃ嬉しかったな。それと関係してんのかな?)

そのサイトに釘付けになる航平。さらに下までスクロールする。


【営業の人の気持ち、仕事を理解してないと学生には伝わりづらい】


(まぁ、そうだよな。キャリア積まないと人事なんてできないよな)


【動画面接へエントリー!】

(なんだこれ)


興味を持った航平がURLをクリックする。

(えっ、絶対に変なサイトいかないよね?)


「うわ、押しちゃった。」

画面にノイズが走る。


「も、、、、し。もし、、、、もーし」

パソコンのスピーカーから声が聞こえる。


「え、これ本当に繋がってんの?」


「あっ、繋がってる!!もしもーし!」


「はいっ!」

航平は勢いあまり返事をしてしまった。


「こんにちは!!面接で大丈夫だよね!?」


「は、はい!」


「いやー、この、、、、面接、、、、初の試みだから緊張しちゃうねー」

通信環境が悪いのか音声が途切れ途切れになる。


「わ、私も緊張しておりますっ」


「そっかそっかー。あれ、こっちの顔見えるー?」


「い、いえ、通信環境が悪いのか、見えておりません!」


「えっ、本当に!?まあ、いいか!君の顔は見えてるから大丈夫!」


「はい!」


「じゃあ、早速面接始めるね!自己PR30秒くらいね!どうぞ!」


「えっ!?」


「えって、準備したから、この面接に進んだんじゃないの?」


「あっ、いえその通りです。」


「はい、1分数えるよー。よーいどん」


「え、えーっと。私は、成長意欲があり、また苦手なことも努力ができます。私は現在家庭教師をしています。最初は自分の教え方が下手で中々生徒の成績が上がりませんでした。

しかし、噛み砕き生徒の目線に立って話す様に心がけ、次第に生徒の理解力も深まり、生徒の成績も上がるようになりました。このように苦手なことも努力することができます。」


(あー、テンプレートみたいな内容だ、、、)



「はーい。ありがとう!よくわからない内容だったけど、とりあえず努力できるってことね!じゃあ、次は、強みを教えてくれる?」



「はい。強みですね、、、。

えーっと、先ほどの内容に関わることですが、、、、私の強みは、、、、、。」


(努力できるって強みなのか?誰でもできることが強みなのか?)


「それは、」


(本当に成長したいなんて思ってんのか)


「………」


(あんだけ自己分析しても見つからなかった。したらしたぶんだけ弱みが見つかって自分を嫌いになった)


「強みは………。ない………、です」


「はい、しゅーりょー!って、強みないの?」


「はい、、、、」


「正直だねー。正直すぎるねー。真っ白なだねー」


「………」


「ちょっと、待っててね!」


「ボスー!ボスーいるー?」


(ボスってなんだ?この会社はそんな呼び方するのか?)

面接官が遠くで何かをしゃべっている。カーテンで遮られていて影でしか見えないが、とてつもなく大男である。


「はーい!お待たせー。では、合否の連絡するね!」


「え、いまですか?というか、これで終わりですか?」


「そだよ!では、いきます!音楽スタート!」


「ダララララララララララララララララ………」


「ジャーーーン!!合格です!!」


「えっ、合格?なぜですか?」


「正直者だから!」


「へっ、それだけで?」


「うん!まぁ、他にもあるけど!」


「は、はぁ………」


「なんか、納得してないねー」


「いや、他だったら落ちてますよ?」


「他は他!うちはうち!」


「もうなんか、よくわからないんですけど」


「あと、質問に対して、一生懸命考えてくれているなーってことがすごく伝わってきた!」


「まぁ、それは面接ですし………」


「でも、最近の子って頭すっごく硬いんだよね。なんか、完璧に考えてきました!っていうような文章を感情もなしにただただしゃべってるだけでつまんない。いい?人の心を動かすのもまた人の心なんだよ?」


「…………」


「君のそういうところも、正直なところも、すごくいい御両親があっての人格だと思うんだ。感謝しないとだね!」


(就活で親のことを褒められるなんて思ってもいなかった。)


「で、配属先なんだけどー」


「え、もうですか?ってか、配属先も決まってるんですか?」


「うん!人事部です!」


「えっ!?」


「もう一回言う?じ、ん、じ、ぶ!」


「いや、だって人事部って現場のこともわかっていないといけないし、仕事も理解しないといけないから………。」


「そうだね、それはその通り。だから、君にはハイブリッドな存在になってもらう!」


「ハイブリッド?」


「そう!ハイブリッド!現場も出てもらうし、同時に人事もしてもらう!」


「はぁ。人事部って人を採用する仕事ですよね?」


「そう!その通り!でも、人事部って採用だけではないよ!研修を組んだりとか、成長といった育成という部分にも携わっているの。教える仕事をした君ならすごくぴったりだと思うの!あとは一生懸命物事に対して考えてくれる君と、この会社ギルドで一緒に働きたいと思ってるの!」


(ん?ギルド?なんのことだ)


「は、はあ。」


「強みのない君!一緒に強みを見つけていこう!!」


(こんなに、自分を尊重してくれる、思ってくれる企業があったかな。)


「一緒に働こう!ね?」


(ここで働いてみたい。自分を変えてみたい。)


「よ、よろしくお願いします。」


「よし!おっけー!じゃあ、今から水晶繋げるね!」


「えっ?水晶?」


「今から本社アマティアスで、色々な手続きするから!」


「え、え?」


「じゃあ、繋げるねー!」

航平の液晶が七色に光り輝く。



——————————

「お、、、、、い。おーーーい。」


「…………」


「おーい」

さっきまで聞こえていたノイズまみれの声とは違ってはっきりとしたクリアな声。


(あれ、パソコンの画面から聞こえいた声だ)


「は、はい」


「立てる?」

航平は体を支えられ、起き上がる。次第にフラッシュでやられていた視界が鮮明に目の前を写しだす。


「こんにちは!」


「こんにちは………」

航平の目の前には尻尾と猫耳が生えた"人間"のような生き物がいた。


「ようこそ!アマティアスへ!そして、これから働く会社ギルドのグランダスへようこそ!」


「えぇぇぇぇぇ!?」


「どうしたのそんなに驚いて?」


「ここは、、、、?」


「ん?会社ギルドのグランダス」


「あなたは、、、、?」


「私はジェントーレ!」

猫耳がピクピクと動く。

航平はほっぺたをつねる。


「どうしたの??大丈夫?」


「、、、、、、」

航平はほっぺたをつねっている。


「ジェントーレ、やっぱり不具合があったんじゃないか?」

2足歩行で人型の白い虎がジェントーレという人物に話しかけている。


「えー、ちゃんと実験したんだけどなー。」


「いくら、お前の魔法力が強くても強制転送は、人体に影響がでるのかもな。しばらく、この採用システムはやめようか」


「えー、効率いいのにー」

航平はほっぺたをつねっている。


「ねえ、ねえ、君痛くないの?」


「い、痛いです。夢ですか?」

航平はほっぺたをつねっている。


「きみ、おかしな子だねー。夢は痛くならないでしょ?」

航平は全てを理解した。


「異世界、、、、、」

航平は呟く。


「ん?イセカイ?」






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