博士を愛したショウジョ

ヘイ

博士を愛したショウジョ

 とある実験をしてみることにした。

 記憶を失って生まれた私が、私と言えるのか。私としての思い出はないが、筆跡も好きなものも性格も、何もかもが同じ様になるのか。単純な興味からだった。この世界で生きる意味を見出せなかった私は、この実験を躊躇いなく行うことができる心境であった。

 意図的に記憶を失うには助手が一人、必要になる。そこで私は実験を手伝うためのロボットを作ることにした。


 ああ、そうとも。

 ここからが全ての失敗であった。

 ロボットは無事に作り終えた。全ての工程においてミスはなかった。完璧だった。今までにないほど。システムのチェックは万遍なく目を通して、プログラムのデバッグもしっかりと行った。

 その癖、出来上がったのはポンコツであった。言われた通りのことをこのロボットは行わない。


 放置していれば支障をきたすと考えて、私はこのロボットの電源を落とした。このロボットにはシリコンの人工皮を被せることはなかったため、体は剥き出しの機械である。

 その後、私は新たなロボットを作ろうとするがどれもこれもが最終段階になって失敗する。この時に私は気がつくべきだったのかもしれない。


 私は実験を見失っている。


 私の目的はロボットの制作などではない。しかし、助手をどうやって見つけようか。そこで、私は旧友の伝を頼ることにした。


「すまないが、人を一人貸してくれないだろうか……」


 私が電話機越しにそう頼めば、優秀な人材を送ると男の声がした。

 それから数日、私の元に若く美しい少女が来た。感情豊かな可愛らしい少女だった。


「おはようございます!」

「ああ、おはよう」


 元気いっぱいな彼女は私の実験に対して、初めは協力的では無かったものの、徐々に私に心を開いてくれる様になって私の実験を手伝ってくれる様になった。


「博士、朝食を作りましたよ!」

「ありがとう」


 どうにも私は彼女に並々ならぬ感情を抱く様になってしまった様だ。


「博士」


 そう呼ばれるだけで、私の心は若い頃の様に激しく鳴り響く。実験などやめてしまおうかと考えもしたが、それだけはダメだ。



「やっぱり、実験なんて止めましょう……」



 ある日、彼女は私の体に抱きついて、そう言った。その頃には私もすっかり彼女を愛してしまっていて、その言葉に簡単にうなずいた。

 自分を愛してくれる存在がいると言うことが何よりも大きかったのかもしれない。


「博士、一緒に暮らしましょう。ずっと、ずっと一緒に……」


 私はその体を抱きしめ返した。

 私は家の中の物を処理しようと部屋を回った。この場所はこれから彼女と暮らすための場所だ。要らないものは捨ててしまっても構わないのだ。


 私が助手として作ったが電源を落とし続けていたロボットも捨てようと物置部屋に入ると、そこにはロボットの姿がなかった。


「博士」


 物置の外、すぐ近くから私を呼ぶ声が聞こえた。


「大好きですよ」


 彼女は私に愛を囁いた。

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