終章 孤独
第43話 停止した時の中で
楓真との決着の後も停止世界はやってきて、天音は否応なしに戦いに巻き込まれた。数多くのバンディットと戦って、何度も命の危険に晒されてきたが、なんとか生き残っている。何度も命の危険に晒され、今度ばかりは駄目かとも思ったが、それでも切り抜けてきた。彼との戦いによって、天音は戦士として大きく成長したのかもしれない。
その間に遭遇したビジターや、共に戦ってきた仲間がいたがどうかも分からない。もしかしたらずっと一人で戦ってきた、というのは考えにくいのかもしれないが、停止世界では証明するものは何もない。
天音が初めて停止世界の戦いを知ってから、ようやく一年が経った。学業と戦いを両立しなければならず、成績は良い方ではないが、なんとか進級することができた。
未だに彼女は一人で戦っている。最初のうちは心細かったが、しばらくしたら慣れてきて、孤独が気にならなくなった。
だが、一体いつまで戦わなければならないのだろう、という疑問は常に頭の片隅にあった。相変わらず戦いが始まった理由もはっきりしないし、戦いのゴールも見えない。
それでも、天音は戦い続けるしかない。いつの頃からか、あと何度戦えば解放されるのだろう、と願うことさえ止めた。
今はとにかく、一日一日を生き残ることだけを考え続けた。
楓真との戦いで腕を落とそうとしたときに向かった美術室に、天音はときどき向かっていた。何故美術室なのかは今でも分からないが、どことなく落ち着く空間のように感じていた。
ビジターが生き残ることができたら、美術室でゆっくり停止世界のことを教えるのもいいかもしれない、と考えるようになっていた。
そして今日も、突然の耳鳴りに襲われて停止世界に巻き込まれる。
世界の命運がかかった戦いなのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。目の前に救える命があるなら救う。倒せる敵は倒し、自分の身を守る。それをひたすら繰り返すだけだ。
ビジターの探索をしていると、一年の教室で女子生徒を発見した。そこは、ちょうど一年前に天音がいた教室であった。彼女は周りを見回しておろおろとしているが、天音の姿を見た途端、驚いたような安心したような表情をしている。
「一緒に来て」
停止した時の中で、天音は女子生徒に向かって手を差し出しながら言った。かつて自分も同じようにされたのだろう、と思いながら。
停止した時の中で 松本 ゆうき @yukiyora
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