第42話 戦いの終わり

 楓真は口から血を吐いて倒れた。ナイフを突き立てた傷口からもおびただしい血が吹き出している。心臓と一緒に肺を傷付けたのだろう。

 天音がこうして立っていられるということは、戦いに勝ったということなのだろう。

 腕を自分で斬って投げつければ、自動迎撃は腕の方を優先するはずである。そう考え、美術室で左手をナイフで斬ったのである。腕をきつく縛って出血を抑えようしたが、痛みが消えるわけではない。途中で何度もやめようと思ったが、歯を食いしばって何とか腕を斬ったのである。

 腕を斬られる痛みは一度経験しているはずだったが、太刀で一瞬のうちに斬られたのと自分のナイフで切り落とすのは訳が違う。覚悟はしたものの、刃を肌に当てると躊躇ってしまい、激しい痛みのために長い時間掛かった。

 殺されるのか、失血死なのかは分からないが、これで無理ならどうせ死ぬ。

 楓真の元へ戻る間、何度も意識を失いかけた。このままどこかに座ってやり過ごそうか、と迷ったのも一度や二度ではない。どうしてこんなつらい戦いをしなければならないのか、と弱音を吐きたくもなったが、自らの奮い立たせて戦いに臨んだ。


 倒れている楓真を見下ろす。

 もはや彼に戦う力は残っていないだろう。太刀も手から離れ、苦しそうにもがいている。武器を離してしまえば能力は発動しないようで、楓真はすがるように天音の細い足首をつかんでいる。

 しかし、天音の体力もそこまで持ちそうにない。左手はずっと痛み続けて、意識が朦朧としている。


 天音は楓真が落とした太刀を掴んだ。

 このままでは、彼の死を待っている間に自分が死んでしまうかもしれない。


 ——意識があるうちに、止めを刺さないと。


「私の勝ち……」

 太刀を逆手に持ち、彼に切っ先を向ける。

「これでおしまい……!」

 迷うことなく、刀を突き立てた。肉を刺す感触が、命を奪う感触が、太刀から天音の腕に這い上がってくるようである。


 ふわりと浮かぶ感覚がやってきた。

 停止世界の終わりを知り、天音はやっと安堵した。


 ——終わった。


 だが、停止世界の戦いから完全に解放されたわけではない。目の前の殺し合いから一時的に離れるだけなのだ。

 それでも今は、生き残れたことをひたすら噛みしめることしかできなかった。

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