第8話 どうか、雪が溶けて春がやってくるように、


 

 始まりは、僕らが出逢った雪の降り始めた日。

 そして、物語のラストは沙希の退院する未来。



 そんな始まりの物語を、僕は沙希に贈ろうと文字を書き進めていく。


 沙希が僕の小説家という夢を応援してくれたように。僕が沙希の夢のためにできることを模索して、そして得た答えがこれだった。


 僕には小説を書くことしか出来ない。それなら、彼女の信じる未来を小説として綴ろうと、そう思ったのだ。


 一〇ページ。一五ページ。二三ページ。


 毎日書き進め、その度に沙希に原稿を読んでもらった。今までのような短編小説じゃないから、すぐには書き終えられないけれど。まだまだ未熟だから、思ったようには仕上がらないかもしれないけれど。それでも、僕は沙希にこの作品を通して伝えたい想いがあった。未来に希望を持ってもらいたいと強く願っていた。


 僕たちの望んでいる未来は、きっと手に入れられるものだって。文字を打ち込みながら、信じていく。


 もしかしたら、この小説を書く行為は折れそうで、今にも立ち止まってしまいそうな心をどうにか支える命綱なのかもしれない。


 見えない未来。

 現在の先にある、優しいとは限らない世界は本当にとてもこわいものだと思う 。挫けそうになる。でも、奇蹟を信じる。雪が溶けて春がやってくるように、この冷たく凍えた白い時間も、始まりへと向かっていくのだと信じていく。未来を、願う。

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