第5話 入門
とにもかくにも、一旦宮崎に帰って、修行の準備を始めた皇朔耶(すめらぎさくや)と子供達。
天岩戸温泉に桜が咲く頃になると、3人の子供達はそわそわ。
皇朔耶自身も、ワクワクが止まらない。
慎之介が皇朔耶に九州から南を任せようと思った理由がもう一つある。
慎之介の見るところ。
皇朔耶は天照大神の庇護を受けている。
太陽になれる男だと思った。
引っ越し直前になり、3人の子供達を伴って皇朔耶が天岩戸神社に参拝した。
天岩戸から慎之介が出て来たので、皇朔耶と3人はひっくり返るほど驚いた。
『朔耶殿・・・
まだ九州から南の将軍になる
自信は持てなさそうじゃな。
俺は、やみくもにそなたを
指名したわけではない。
その証人を紹介しよう。
そなたの守護神じゃ。
出て来なさい。
天照・・・』
慎之介に呼ばれて、静かに
現れた天照大神。
『わかったか。
そなたは、九州から南を照
らす太陽になる宿命を背負
っておる。』
なるほどと思ったが、いきなり自分の守護神が天照大神と言われてもピンとこない。
皇朔耶は、さすがに混乱した。
3人の子供達は、近くに控えていた親族に報告した。
自分達の族長である皇朔耶の守護神が天照大神だったと聞いた高千穂一族は大喜びした。
そして、自分達と本人すら知らなかった朔耶の守護神を知っていた慎之介。
しかも天岩戸から出て来るなどという人間業ではないことをやったという慎之介を畏怖した。
ただし、3人の子供達は慎之介の正体を知っているため、ことさら驚かない。
鬼界丸という子供が。
『だって、慎之介様は、
大日様なんだから、
当たり前だよ。』
ばらしてしまった。
高千穂一族の面々は、慎之介と朔耶の姿を見つけるとひれ伏して拝むようになってしまった。
忍者の宗教の最高神2人である。
人々の崇拝は仕方ない。
ただし、皇朔耶にとっては、慎之介と並ぶなどとんでもない。
慎之介を師匠とすら思っている。
朔耶としては、龍門館で、改めて修行のやり直しをさせてもらうつもりであった。
皇朔耶と3人の子供達は、高千穂という、山間部の集落で育ったために、便利な生活ということがわからない。
エレベーターのある建物など、役場しか見たことがない。
ましてやエスカレーターなど、テレビのニュースの世界。
洗濯洗剤から駄菓子まで売っているような田舎の商店はある。
八百屋と魚屋・肉屋は別々にあるが、スーパーマーケットはまだない。
龍門館の売店には、その両方が揃っている。
1階の売店入口の自動ドアに腰を抜かした。
朔耶と3人の子供達にとっては、まるで魔法の世界にしか見えない。
すべて機械で電気で動いていると教えられても、電気など電灯とテレビと冷蔵庫と洗濯機を動かすことしか知らなかった。
自分達に用意された部屋にテレビと冷蔵庫があり、テレビと電灯は、リモコンで座ったまま操作できるということすら、笑うしかなかった。
子供達は、争って電灯を点けたり消したり。
テレビのチャンネルを変えて喜んだ。
皇朔耶は、日本の力が、自分達の考えていた以上に進んでいたことに驚愕するしかなかった。
高千穂の役場に置いてきた端末機と皇の部屋を結んだテレビ電話にいたっては、もう神業でしかない。
『お頭・・・
そこは未来の世界ですよ。
早く逃げてこないと。』
年寄り達は、口々に朔耶と子供達を心配する。
しかし、高千穂忍者一族の集落が遅れているだけと教えても、信用しようとしない。
地デジ受信機すら役場の配慮で集落の外から電気屋が1軒1軒訪問して取り付けしたという。
役場のテレビが液晶になぅても、役場だからこそできるようになったとしか思っていなかった。
パソコンやインターネットなど、とんでもないことで、携帯電話すら理解できていない。
全て、テレビのニュース等で見ている品々で、普及されていると教えるしかなかった。
慎之介の提案で、数人ずつ龍門館に招待して、現代生活を体験させることにした。
1ヶ月近くかかったが、高千穂忍者全員の現代生活体験が終わった時、高千穂忍者一族は慎之介に臣下の誓いを立てて、全員が龍門館忍術を修行したいと希望した。
慎之介から報告を受けていた戸澤白雲斎の英断で、高千穂忍者一族も入門することとなった。
日本忍軍が産声を上げた瞬間であった。
龍門館の慎之介日本忍軍 近衛源二郎 @Tanukioyaji
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